蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

粉ミルク、事実関係を整理し計算をしてみよう

まずはプレスリリースから。

「明治ステップ(850g缶)」のお取り替えに関するお詫びとお知らせ
のたび、当社製品「明治ステップ(850g缶)」の一部の製品から、わずかながら放射性物質が検出されました。同物質の値は、食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定規制値(牛乳・乳製品で放射性セシウム134及び137の合計値200Bq/kg)以下で、22から31Bq/kgであり、毎日飲用されましても健康への影響はないレベルとされております。
しかしながら、当社としては、調製粉乳(粉ミルク)は乳児にとって極めて重要な栄養源であることから、乳児を持つお客様に安心してご愛用いただくことを最優先し、すでに対象製品をご購入のお客様で、お取り替えをご希望のお客様におかれましては、新たな製品と取り替えさせていただきます。

http://www.meiji.co.jp/notice/2011/detail/20111206.html

最大数値はCs134+Cs137の合計値で30.8Bq/kg。(Cs134が14.3Bq/kg、Cs137が16.5Bq/kg)

・きっかけ:NPO法人のTEAM二本松がNaI検出器で測定して検出され、その後明治乳業がGe半導体検出器で測定して今回のことがわかったようです。
http://team-nihonmatsu.r-cms.biz/


この件について、出来るだけ事実関係を整理してみようと思う。ついでに個人的なコメントもつけてみる。
・Cs汚染の原因は?
”噴霧乾燥する際に使った熱風に一部放射性物質が混入したとみられる。”
http://jp.reuters.com/article/jp_quake/idJPTYE7B503C20111206

個人的考察:乳製品を加工する工場で簡単に外気が入り込むとは考えにくいのですが…
原発事故後1〜2週間は、頻繁に出入りしていたら放射線物質測定装置のバックグラウンドが高くなったとの話を聞いているので、ちゃんとした設備を持っていても放射性物質コンタミネーションを防ぐのは困難なのかもしれない。ただし、確定とまでは行かない情報だと思うので、さらなる追跡調査をしてほしい。


・明治の粉ミルク「ステップ」とは
”満9ヶ月頃からの乳幼児期に合わせて、離乳食からではとりにくい鉄分やカルシウム、ビタミンなどの栄養素をバランスよく配合したフォローアップミルクです”
http://catalog-p.meiji.co.jp/products/baby_mother/milkpowder/040104/4902705100527.html?rnd=5f9c38b60a86921afc5119bfe2e6b6ad
個人的感想:つまり、メインで与えるミルクではない、ということですね。


・乳製品の暫定規制値は?:200Bq/kg
個人的感想:規制値以下である。明治乳業も「回収」ではなく「新たな製品と取り替え」という対応です。


・具体的にどのくらい摂取することになるのか?
これを飲んだ場合、どのくらい摂取することになるのか計算してみよう。

ミルクの作り方は、公式HPではイマイチわかりにくかったので、こちらを参考にした。
http://item.rakuten.co.jp/drugyutaka/4902705100527/

約28gを溶かして200mLにして、9−12ヶ月の時に最大目安量として700mL与えることになるらしい。

まずは粉ミルクの使う量。
200mLで28gだから、700mLでは3.5倍の98g。
98gg中に何ベクレルあるかというと…
元が30.8Bq/kgだから、30.8Bq/1000gなので…3.014Bqになる。

つまり、この今回の明治ステップを与えた場合、目安量を一番飲ませた場合で、一日に約3Bq摂取することになる。(細かく書けば、Cs134が1Bq、Cs137が2Bqになる)


・飲んだ乳幼児への影響は?
人体への影響はBqではわからないので、Svに単位を換算する必要があります。で、計算しようと思ったら、すでに食品安全委員会や日本産婦人科学会が計算していましたので、そちらを紹介します。

食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/sonota/emerg/cesium_powdered_milk.pdf

日本産婦人科学会
http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_20111208.html

どちらも細かく計算されています。

とりあえずここでは、日本産婦人科学会の計算例を引用します。
”乳児の場合、1日に粉ミルク60gを消費すると仮定し、また汚染粉ミルクを4ヶ月間(120日)飲み続けたと仮定した場合、この粉ミルクからこの乳児が余分に受ける被曝量は以下のように計算されます(影響の大きいCs134が30Bq/kg含まれていたと仮定)。
mSv=30×60×120÷1,000×2.6÷100,000=0.0056
すなわち、5.6マイクロシーベルト(1ミリシーベルトは1,000マイクロシーベルトと同量)と計算されます。”
補足:なお、食品安全委員会は「食品による内部被ばくのみ」生涯の累積実効線量100mSvとしています。この数値と、5.6μSvを比較すると…とっても小さいです、はい。


・放射性ヨウ素131等、他の放射性物質もあるんじゃない?
個人的考察:理論的には0とは言えませんが、もはやGe半導体検出器でも見つけられないほどの量になるので、リスク要因として考えなくていいと思います。


・で、安全なの?危険なの?
日本産婦人科学会のコメントを抜粋。
”「通常の授乳期間、授乳を続けても、お子さんの健康に影響することはありません。」とお伝えすることが可能だと判断いたします。”

個人的感想:私もこれに同意です。




ちょっと解説・生物学的半減期
これは、放射性物質半減期とはちと異なり、摂取した放射性物質が元の半分に減少する期間です。新陳代謝で外部に出ていくというイメージをして頂ければと。

先ほどの食品安全委員会の資料見てもらえばわかりますが、

0〜 1歳: 9日
 〜 9歳:38日
 〜30歳:70日
 〜50歳:90日

と、年齢が低いほど放射性物質の排出が早いことがわかります。



おまけ:今回の件で役に立つと思うページのURLを紹介していきます。

明治の粉ミルク「ステップ」からセシウム、40万缶無償交換について
http://togetter.com/li/224240
同じように色々計算している方のTwitterでのまとめです。

乳児・幼児の被曝量の計算(趣味:科学)
http://flatfisher.blog68.fc2.com/blog-entry-398.html
こちらも計算しています。乳児と成人の換算係数の違いに気がつくのはさすが。

明治ステップから放射性セシウムが検出された件についての原田英男さんの解説
http://togetter.com/li/224077
経緯が詳しく書かれています。私が書いた内容に加えてこれを読めばさらに状況が把握できるかと。

乳児用粉ミルクは安全(食品安全情報blog)
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20111207#p1
香港の食品安全センター勤務の博士のコメント紹介。

「検出」と「危険」じゃ意味が違う(粉ミルクの話) (アカチバラチの日記)
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20111206/1323192061
詳しくは読んでもらうとして…頑張って計算したのが虚しくなるような内容が書かれてます。

食品中の放射性セシウムスクリーニング法

7月に、厚生労働省からの事務連絡で”牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法”について連絡がありました。

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001krg9-att/2r9852000001krme.pdf

(7月に、この件について記事書きました。牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110731 )


今日になって、これらの更新情報があったことに気がついたので(^◇^;)
自分用のメモの意味も兼ねて、概略を書いていきたいと思います。

事務連絡 平成23年9月7日 牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の一部改正について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001p1mi-att/2r9852000001p1sb.pdf

内容は「新旧対照表」。7月に出されたものと比べると…
・統計計算や検査手順をより細かく解説している
ゲルマニウム半導体を用いたガンマ線スペクトロメトリー、いわゆるGe半導体検出器もスクリーニングとして使える
この2つが大きな違いだと思います。
…Ge半導体検出器をスクリーニングに使ってるところはさすがにないと思う。(これがあるなら、普通に測定するでしょ)


事務連絡 平成23年9月7日 牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法のQ&Aについて
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001p1mi-att/2r9852000001p1to.pdf
上記の事務連絡「牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の一部改正について」のQ&Aです。

私が思ったこの事務連絡のポイントは、A1−2のリンク先にある日本アイソトープ協会ホームページの紹介です。

食品中の放射性セシウムスクリーニング法に対応可能な機種(NaI(Tl)シンチレーション検出器)の情報について
http://www.jrias.or.jp/index.cfm/6,16065,110,html
(2011/10/27 23:24時点では接続困難。また、今後URLが変更されるかもしれません)
このHPから、NaI検出器のリストを見ることができます。正直、予想以上に種類ありました。


事務連絡 平成23年9月7日 牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の考え方について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001p1mi-att/2r9852000001p1r9.pdf
・スクリーニングレベルの統計的な解説
・規制値(現在は500 Bq/kg)の1/2 以上をスクリーニングレベルの要件とした。
【10月29日追記】


事務連絡 平成23年10月4日 食品中の放射性セシウムスクリーニング法について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001ql0l-att/2r9852000001ql29.pdf

対象食品に”玄米、精米及び麦類”が加わりました。
また、牛肉と異なり、サンプリングについても注意点が記載されています。
「ロットを代表する試料を採取するためにランダムサンプリングを行い,採取した試料はよく混合して均一化する。」

ということで、これからは牛肉だけでなく、「食品中の放射性セシウムスクリーニング法」となりました。


ただし、このスクリーニング検査は、検査して公的に成績が出せる食品は「牛肉・玄米・精米・麦類」だけです。
(10/4時点、他の資料を見逃していなければ(^◇^;))

他の食品をNaI検出器で測定して数値出しても、参考値となることはご承知置きください。
厚生労働省が出している食品中の放射性物質の検査結果には検査法(Ge/NaI)の欄がありますが、NaIで成績出しているのは牛肉ばかりで、他の食品はGeでの測定になっています)


平成23年11月12日(土)追記

事務連絡 平成23年11月10日 食品中の放射性セシウムスクリーニング法の一部改正について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001us4f-att/2r9852000001us94.pdf

対象食品
が飲料水、乳及び乳製品を除く食品全般に変更されました。

事務連絡 平成23年11月10日 食品中の放射性セシウムスクリーニング法のQ&Aについて
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001us4f-att/2r9852000001usfz.pdf

このQ&Aに、さりげなく重要なことが書かれていたりするのですが。
・牛肉を含む鳥獣肉については、以前より示している「[食品に残留する農薬、食品添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法](平成17年1月24日付け食安発第0124001号厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知)第1章総則4.試料採取(5)筋肉の場合に準じて採集する」に基づき実施する

牛肉に限らず、お肉は筋肉部位を採取して検査することが確定しました。

また、前回のQ&Aにも書かれていましたが、これも重要です。
A3−1より抜粋:134Cs及び137Csそれぞれの核種を分離して測定することが可能であり、それぞれの測定下限値を足して50Bq/kgを満たす必要があります。

つまり、現時点では…
134Cs及び137Csの比率がほぼ同じであることから、134Csで25、137Csでも25Bq/kgを測定出来るレベルの測定装置でないとスクリーニング検査が出来ないということです。
(NaI検出器でも、20〜30分くらいの時間かけて測定しないと、この数値を満たすのは実質無理だと思う。Ge半導体検出器持ってるところなら最初からこっちの方が楽かもしれない)


11月10日に厚生労働省から新たな連絡があったので、追記しました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001us4f.html

pH調整剤が変わる!?

今日、職場で購入している専門雑誌(日添協会報)10月号を読みました。

ざっと流し読みしていたら、添加物的にとっても気になる文言がありましたので、慌てて調べました。
(もしこの雑誌を読める環境にある方は、雑誌の相談コーナーQ&Aおよび官報記事を読んでください)

食品衛生法第19条第1項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府
内閣府令第45号、平成23年8月31日)
http://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/data/fd_21pfkvofo26d58/downfile2036944690.pdf
(官報をスキャンしたと思われるPDFファイル、読みにくい)

リンク先消えました。まあ、スキャンした物を載せるのはよくないでしょうからね。
(官報ってWeb上で検索しても1ヶ月以内のしか検索できないんだよなぁ。不便でしょうがない)

原文を読みたい方は、官報を読むか、日添協会報10月号を読んでください(^◇^;)


関連して、消費者庁からはこのような通知が。
食品衛生法第19条第1項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令等の施行について
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin700.pdf

これは平成23年9月1日にすでに施行されています。


・・・で、食品添加物的に何が驚いたかというと・・・


食品衛生法第19条第1項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令に係る訂正について
(事務連絡 平成23年9月1日)
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin701.pdf

訂正自体はまあいいのです。
問題は、このPDFファイルの2ページ目、別表第5(第11条関係)のところです。
なお、別表第5は、一括名に関する表になっています。



水素イオン濃度調整剤!?
・・・添加物に詳しい私でも、初めて聞いた用途名です。

これ、一言でいえば・・・
今までのpH調整剤が新しい用途名・一括名に変わったのです。


(改正後全文)
食品衛生法に基づく添加物の表示等について(平成22年10月20日消食表第377号)
最終改正 平成23年8月31日消食表第378号

各一括名の定義及びその添加物の範囲

13 水素イオン濃度調整剤
(1) 定義 食品を適切なpH領域に保つ目的で使用される添加物及びその製剤。ただし,中華麺類にかんすいの目的で使用される場合を除く。
(2) 一括名 水素イオン濃度調整剤又はpH調整剤
(3) 添加物の範囲 以下の添加物を水素イオン濃度調整剤としての目的で使用する場合。

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin524.pdf


先ほどあげた訂正についてのPDFファイルにも、このように書かれています。

「水素イオン濃度調整剤」として使用した添加物については、従来どおり「pH調整剤」の一括名で
表示することが可能です。

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin701.pdf



5月に用途名について書きましたが http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110507
まさか1年もしないうちに修正することになるとは思わなかった(^◇^;)



・・・しかし・・・
一括名がpH調整剤から、水素イオン調整剤に変更された経緯は全く知らないのですが・・・何故!?
何故このような言い換えをする必要があったの?
表示上は、従来通りpH調整剤でもOKなのですから・・・意味不明。
表示する側だって、今まで使ってきていて、文字数が短い方であるpH調整剤を用いるでしょうに。

「都が輸入食品の放射能検査中断」の報道で思ったこと

9月30日、こんな報道がされました。

都が輸入食品の放射能検査中断 国産と異なる基準懸念

東京都が、1986年のチェルノブイリ原発事故以来続けてきた輸入食品の放射能検査を今年度から中断している。理由は、東京電力福島第一原発事故で決まった国内産食品の放射性物質の基準が、輸入品の基準と異なるためだという。放射能汚染に関心が高まるなか、輸入品のチェックはなおざりになっている。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201109280218.html

このニュースは、柳ヶ瀬裕文 東京都議会議員のブログを読んでおいた方がいいでしょう。(たぶんここがこの報道の出発点)
輸入食品の放射能検査を東京都が中止していることについて

柳ヶ瀬都議員のブログでは、”担当部局に理由を聞いたところ、「検査機器が古くなっている」「国内品の検査体制との兼ね合い」等の理由とともに「基準値の問題」がある”とのことだったそうです。
(なんとなくですが、担当部局といっても食品監視員や検査の人じゃなくて、現場に詳しくないお偉いさんが回答していているような?)


議員が聞いた担当部局のお話での理由のうち、なぜかニュースには「基準値の問題」しかでていません。(・・・なぜ?)



今回は、このニュースとブログを読んで、気になったことを書いてみたいと思います。


・基準値の問題とは

これは、現場で取り締まる食品監視員側で特に問題になる事項です。
暫定規制値が国産(500Bq/kg)輸入品(370Bq/kg)で異なる・・・
放射線以外の農薬とか添加物ではありえない自体です。

輸入業者に対して、指導しづらいですよ、これは。
法律的にこう決まってますよと一刀両断することもできますけど、国産と輸入品で違うことに対して、合理的な説明できないですよ。
(食品監視員ではないので、この辺の困難さはうまく説明できません。ごめんなさい)

これは政府の方で早々に規制値の検討を行うべき問題です。
私もこの数値の違いは気になっていて、4月にblogで記事書きました。
http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110407


そして調べてみたところ、平成23年7月28日に改正されてました。

旧ソ連原子力発電所事故に係る輸入食品の監視指導について (改正:平成23年7月28日)
http://www.jfta-or.jp/wordpK/wp-content/uploads/2011/07/110728_sankou.pdf

・・・輸入食品の暫定規制値が370Bq/kgで据え置き!?
混乱状態継続中かよ・・・

現在、EUの規制値は日本と同じなのだから、統一した方がいい気もするんだけどなぁ。
http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/20110411_01.html

(370Bq/kgという数値は、チェルノブイリの事故後に物理的性質、生物学的性質、食品摂取量、輸入食品の割合などを勘案して定められた数値だそうです。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/1-50/pdf/ar-41.pdf PDFファイルの123ページ、年報の113ページから)

Twitter上で東大の早野龍五先生のつぶやき:輸入食品の370Bq/kgという一見不思議な値は,チェルノブイリ事故当時 10nCi(ナノキュリー)/kgを基準値としたため.現在はキュリーに代わってBqが使われるようになったので,それを10nCi/kgをBqに換算すると370Bq/kgとなる)
http://twitter.com/#!/hayano/status/119590061401583616



・検査機器が休眠状態!?
> 都の輸入食品向けの検査装置は計4台。1回30分程度で測定できるが、4台は
>休眠状態で、国内産食品の検査に転用もされていない。都は国に「自前の検査機器を
>フル回転させ食品などの検査を実施している」と説明しているが、セシウムによる
>汚染牛肉などの検査に追われた際も使われなかった。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201109280218.html


まず、輸入食品と国産品の放射性物質の測定について決定的に違うことがあります。

輸入食品:まずはNaI検出器で測定し、50Bq/kg以下だったらNDとする。
50Bq/kgを超えたら、Ge半導体検出器で正確に定量する。

国産食品:Ge半導体検出器で測定する。ただし、牛肉に限ってNaI検出器でスクリーニング検査してもよい。

つまり、輸入食品の検査では、NaI検出器で測定して50Bq/kg以下のものはNDとしてバッサリ切り落としています。機器の定量限界とか検出限界は考慮していません。
(参考文献: http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf 検出限界値は記載されていますが、50 Bq/kg を超えたものについて検出値として数値化した、と書かれています.)
一方、国産食品の測定はすべてGe半導体検出器で10Bq/kg以下まで数字だしてます

この検査の違いがあるので、同列に語ることはできないと思います。



さて、所有台数ですが、さすがにネット上から確認することは出来ませんが・・・

健康安全研究センターで牛肉や野菜果物などの放射性物質は測定されていますので、Ge半導体検出器は使われていることがわかります。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/mon_foods_sea.html
なお、食品の放射能検査データというHPで、9/29の時点でここ3週間さかのぼって確認したところ、54件の結果を出していました。一つの検査機関としては多く出している方だと思いますよ。
http://yasaikensa.cloudapp.net/search.aspx


では、なぜ検査装置が休眠状態というこふに報道されているのか?
私は、健康安全研究センターの年報から推測しました。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2010/pdf/01-29.pdf


それは、「NaI検出器での測定に約30分かかり、最初からGe半導体検出器で測定してもかかる時間はほぼ一緒なので使用していない」

休眠状態となっているのはNaI検出器だと考えると、素直に事情が飲み込めます。
測定時間がほぼ一緒ならば、最初から正確な数値を出せるGe半導体検出器で測定するのも道理です。
実際のところ、Ge半導体検出器で一件あたり現在どのくらいの時間をかけて測定しているのかは不明ですが、仮に1時間以下だったら・・・
容器に詰める作業を考慮すれば、やっぱりGe半導体検出器だけでやるでしょうね。
東京都健康安全研究センターの年報では、Ge半導体検出器にはU-8容器、NaI検出器にはV-11容器と、別の容器を使用している)

(東京都の卸売市場食肉市場で新しく導入する最新機器なら、約10分で終了するらしいので、それなら使う意味もあるでしょうけどね。・・・全頭検査が正しい選択なのかはともかくとして)
【東京】都が肉牛全頭検査、最新機器導入で
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/surprise/20110929-OYT8T00736.htm?from=popin。)

・・・というか、牛肉のスクリーニング検査以外ではそもそもNaI検出器で成績出すの認められてないはず。



ちょっと気になったところの解説みたいな感じで書きました。


最後に、このニュースで私が思ったこと。

輸入食品の検査も大切ですが・・・
東日本大震災から半年ちょっとしか経っていない現時点では、国産食品の検査が最優先ではないでしょうか。
いくら東京都といえども、放射線検査をするには人員予算ともに限界があります。
現時点では、輸入食品の検査中止もやむを得ないと思うのですが・・・。

スライム肉まんの色

※今回は、半分ネタです

株式会社ファミリーマートは、株式会社スクウェア・エニックスが手がけるロールプレイングゲームの名作「ドラゴンクエスト」シリーズの誕生25周年を記念して、同社監修のもと、人気モンスターキャラクターである「スライム」を象った、「スライム肉まん」(税込170円)を全国のファミリーマート店舗で発売いたします。
http://www.family.co.jp/company/news_releases/2011/110905_01.html

実際のサンプル画像は上記HPをご参照あれ。
ドラクエのスライムを忠実に再現しているようで、生地の色が青いです。

サーチナによると、こう書いてあります。

なお、生地の色については合成着色料を一切使用していない
(一部報道によれば、青はクチナシ色素、口の赤い部分はベニコウジ色素を用いている
とのこと。)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0906&f=column_0906_003.shtml

この青い色はクチナシ色素のようです。
正確には、クチナシ青色素で染められているようです。

多少詳しい方なら、青色という時点である程度想像出来たと思います。
着色料で青色なのは、相当限定されるからです。

合成着色料として
・食用青色1号及びそのアルミニウムレーキ
・食用青色2号及びそのアルミニウムレーキ

天然由来の着色料として
クチナシ青色素
スピルリナ色素

これらしかありません。


いくらスライムを忠実に再現したとはいえ・・・HPの写真を見る限り、食欲わきませんな(^◇^;)
ベススライムなら、色はオレンジだからまた違っただろうに(笑)





ある意味ここからが今回の本番。
・・・ふと思い立ち、東急ハンズへ行って、実際にこの着色料買ってきました。


・左から食用青色1号クチナシ青色素、スピルリナ色素

適当に水で溶かしたものも参考として試験官試験管に入れてあります。(試験官試験管もハンズで買いました) 

私が見た感じでは、食用青色1号は普通の青、クチナシ青色素はブルーブラックという感じ、スピルリナ色素は若干赤みも隠れている色合いって感じでした。



※以下、ややグロ画像につき閲覧注意※






では、さっそく肉まんをスライム色に染め上げてみましょう!(爆)

といっても、肉まんを一から作り上げるスキルなどないので・・・
肉まんは、レンジでチンして食べられる山崎製パンの豚トロ入り塩豚まんを使用。
http://www.yamazakipan.co.jp/brand/03_01.html

加熱前ですが、美味しそうな肉まんです。

早速買ってきたクチナシ青色素を水で10倍以上に薄めて・・・刷毛で塗れない。
しょうがないので、原液を直接肉まんの表面に塗ることにしました。

こうやって〜

こんなんなりました。

・・・一気に食欲が減衰しました_| ̄|○|||

これに濡らして絞ったキッチンペーパーをかけてレンジでチン♪

しっかり染まった箇所とそれほどでもない箇所との差が、また一段と・・・

やっぱり青色だけでは、日本人の感性では食品の色ではないよな〜と再認識しました。

ここでTVとかでは「この後スタッフが美味しく頂きました」となるのですが、
そんなスタッフなどいませんし、いたとしても食べてくれないでしょう。

というわけで、私が美味しく頂きました。表面を染めただけなので、当然中までは色が付いてません。

・・・というか、本当に普通の肉まんとして食べれました。
表面に直接クチナシ青色素を塗りたくったから、少しは変な味がするかと思ったのですけど・・・
嬉しい誤算でした(笑)

アフラトキシンの規制値が変わります

平成23年10月1日より、アフラトキシンの規制値が変わります。

食安発0331第5号 アフラトキシンを含有する食品の取扱いについて
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110406I0010.pdf

食安発0331第6号 アフラトキシンを含有する食品の取扱いについて
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2010/dl/110411-1.pdf

1.アフラトキシンを含有する食品の取扱い
アフラトキシンアフラトキシンB1、B2、G1 及びG2 の総和)を10 μg/kgを超えて
検出する食品は、食品衛生法第6条第2号に違反するものとして取り扱うこと。

要するに・・・

今まで(2011年9月30日まで) : アフラトキシンB1 10μg/kg
これから(2011年10月1日から):アフラトキシンアフラトキシンB1、B2、G1 及びG2 の総和) 10μg/kg

今までは、最も毒性の高いアフラトキシンB1のみを規制していました。

これからは、B1・B2・G1・G2の4種のアフラトキシンの合計値で規制することになります。


それに伴い、試験法も変わります。(平成23年8月16日付で公表されました)

アフラトキシンの試験法について
食安発0816第1号 http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110818I0010.pdf
食安発0816第2号 http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2011/dl/110816-3.pdf

事務連絡(試験に用いる精製カラム等の一般名と代表的な商品名について)
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2011/dl/110816-2.pdf

トウモロコシ中の総アフラトキシンの試験法について(簡易測定装置を用いるときについて)
食安監発0816第7号 http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2011/dl/110816-1.pdf



さて、ここでアフラトキシンの規制値の過去や雑感などを書いてみます。

日本でアフラトキシンが規制されたのは、昭和46年3月16日からです。(環食第128号)
http://www.ffcr.or.jp/Zaidan/mhwinfo.nsf/5bcb1018b0c4e33d492565f0000dd9b3/76760b49adad4ce749256dfd0017f477?OpenDocument#_j22ask44egok32a8_

文言では、”全ての食品において、アフラトキシンB1が不検出”なのですが・・・
この当時の試験法は薄層クロマトグラフィーで、検出限界が10μg/kgでした。そして、この検出限界値が実質上の規制値となった経緯があります。


最初に決められてから約30年後に、平成14年3月26日に高速液体クロマトグラフィーの試験法に変更されます。(食監発 第0326001号)
http://www.ffcr.or.jp/Zaidan/mhwinfo.nsf/5bcb1018b0c4e33d492565f0000dd9b3/464d711985192da049257241000f333e?OpenDocument

規制値は10μg/kgのまま据え置きでした。


その後、国際的な流れもあり、食品安全委員会も評価書をまとめ、議論の末、今年10月からアフラトキシンの規制値が変更される運びになりました。

今までのアフラトキシンB1だけでなく総アフラトキシンでの規制になったのは、評価書の45−47ページに書かれている事項が大きな要因だったようです。

かび毒評価書 総アフラトキシンアフラトキシンB1、B2、G1 及びG2)食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-so_aflatoxin.pdf

一部抜粋 ”中国からの大粒落花生においてはAFB1よりAFG1の汚染が高い傾向が認められた。”

普通はアフラトキシン汚染があった場合、量はAFB1>AFG1であることが多いのですが、
どうも中国産では土壌の関係か、AFB1<AFG1となることがあります。

毒性でいえばAFB1の方が強いのですが、AFG1も立派に発ガン物質ですので、従来のAFB1規制だけでは不十分なことが想定されます。
それで、4種の総アフラトキシンで規制する流れに拍車がかかったと思われます。
(世界的には総アフラトキシンでの規制が多いです)


とりあえず、アフラトキシンでの規制値が変わるので、徒然と書いてみました。


おまけ:食品安全委員会 総アフラトキシンのリスク評価
http://www.fsc.go.jp/sonota/kikansi/19gou/19gou_3.pdf

アフラトキシンのリスク評価について大雑把な内容を把握するにはこちらの方が向いているかも。

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと

2011年7月29日、厚生労働省からの事務連絡

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001krg9-att/2r9852000001krme.pdf

7月の初めに、ツイッターで少しつぶやきましたが、ようやく取り入れてくれたようです。



とりあえず、検査機器の数については、これである程度は解消出来るでしょう。


スクリーニング法といってもNaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータの方は、いわゆるチェルノブイリ事故に関連して行われてきた食品中の放射能測定法ですので、それなりに信頼出来る方法です。

旧ソ連原子力発電所事故に係る輸入食品の監視指導について 
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/hassyutu/2009/dl/091218-1.pdf


この事務連絡についていくつか気になったことを書いていきます。。

・牛肉の前処理
試料調製時間も短縮されるように書かれていますが、これは測定機器と容器次第なので、一概に短縮できるとは言えません。
ゲルマニウム半導体検出器でもU-8容器という約100mLの容器を使用するものもありますし、
NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータでも1L、2Lの容器を使用するものもあります。
また、基本的にミンチ状態にするので、量が多少減ったとしてもそれほど短縮されない気も。

正直、試料調整時間はそれほど短縮されないと思います。


また、事務連絡に記載されている自動のウェル型ガンマ測定器って、それほど普及していないと思うのですが・・・?


・NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータといえども、機種による差がある。

これはちょうどいい論文がありました。
*1

これによると、
アロカ(株)製 Aloka MODEL ND-451Fの検出限界:35  Bq/kg
キャンベラジャパン(株)製 802-3X3の検出限界: 9.9 Bq/kg

機種によってはこのくらいの差があります。
(この両機種は、測定下限値に設定された 50 Bq/kg 以下を満たしていますので使用できます)

この実例のとおり、成績に書かれていたND(Not Detected)が検査機関・検査機器によって異なるということが今までよりも重要になってきます。


・NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータで本当に測定下限値である50Bq/kg以下を満たせるのか?

私は実際にやったことないので、想像混じりの文章になるのですが・・・
正直、厳しいのではないかと思います。

それは、機器の性能もピンキリあるということもありますが・・・
むしろ、事務連絡に書かれているこの文章です。
”一般のNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータは、γ線測定器であり、ヨウ素131 や放射性セシウムを検出することができるが、波高分析機能がないため核種分析はできない
ヨウ素131については、原発事故直後ならともかく、現時点では無視できるレベルに下がっていると考えていいでしょう。
問題は、自然界に普通に存在しているK40の存在です。

ここのサイトによると、牛肩ロース(輸入)のカリウムの量は300mg/100g(=3g/kg)
http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/kalium.html

カリウム40:放射線を出すカリウムで、自然界のカリウムに約0.01%含まれています。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/qanda01.html


カリウム1gに放射能強度が30.4ベクレルのカリウム40があるとのことですので*2、単純に計算してみますと・・・

K40だけで91.2Bq/kgという計算になります。

核種分析が出来ないNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータでは、測定下限値を50Bq/kg以下とすることが出来るとは思えないのですが・・・。



あと、さりげなくですが重要な項目がこの事務連絡には記載されています。
2 対象食品 牛の筋肉

実際にこのようなニュースもあります。

セシウム汚染>肉牛 部位により濃度差 統一指針必要に
福島第1原発事故の影響で放射性セシウムに汚染された肉牛が見つかった問題で、同じ1頭の牛でも部位などにより検出値の違いが出るケースが指摘されている。専門家も「セシウム濃度は部位により異なる」と説明している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110731-00000010-mai-soci


セシウムは筋肉に蓄積しやすいと言われてますので、脂肪分の比率によっては数値がばらつき、ニュースでのような事例も起こりえます。

単純に考えて、赤身肉と脂たっぷりの霜降り肉で同じ濃度になるとは考えにくいですね。
筋肉だけでなく、もっと具体的な部位を指定方がいいように思います。
(モモとか肩とか。脂肪分が一番少ない部位が簡単に採取できればそれがベター?)
・・・実際の現場では、そう簡単にはいかないかもしれませんが。


とりあえず、今回の牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと色々と書いてみました。


(検査機器の数を増やすのも重要だけど、全戸検査の方が効率的だと思う。
前の記事 http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110715/1310739871
食の安全情報Blog http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20110731/1312073272 )

*1:輸入食品中の放射能濃度(平成20年度)、観 公子,大石 充男,下井 俊子,森内 理江,牛山 博文、東京健安研セ年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 60, 193-197, 2009
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf

*2:原子力資料情報室(CNIC)http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/4.html