蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

「都が輸入食品の放射能検査中断」の報道で思ったこと

9月30日、こんな報道がされました。

都が輸入食品の放射能検査中断 国産と異なる基準懸念

東京都が、1986年のチェルノブイリ原発事故以来続けてきた輸入食品の放射能検査を今年度から中断している。理由は、東京電力福島第一原発事故で決まった国内産食品の放射性物質の基準が、輸入品の基準と異なるためだという。放射能汚染に関心が高まるなか、輸入品のチェックはなおざりになっている。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201109280218.html

このニュースは、柳ヶ瀬裕文 東京都議会議員のブログを読んでおいた方がいいでしょう。(たぶんここがこの報道の出発点)
輸入食品の放射能検査を東京都が中止していることについて

柳ヶ瀬都議員のブログでは、”担当部局に理由を聞いたところ、「検査機器が古くなっている」「国内品の検査体制との兼ね合い」等の理由とともに「基準値の問題」がある”とのことだったそうです。
(なんとなくですが、担当部局といっても食品監視員や検査の人じゃなくて、現場に詳しくないお偉いさんが回答していているような?)


議員が聞いた担当部局のお話での理由のうち、なぜかニュースには「基準値の問題」しかでていません。(・・・なぜ?)



今回は、このニュースとブログを読んで、気になったことを書いてみたいと思います。


・基準値の問題とは

これは、現場で取り締まる食品監視員側で特に問題になる事項です。
暫定規制値が国産(500Bq/kg)輸入品(370Bq/kg)で異なる・・・
放射線以外の農薬とか添加物ではありえない自体です。

輸入業者に対して、指導しづらいですよ、これは。
法律的にこう決まってますよと一刀両断することもできますけど、国産と輸入品で違うことに対して、合理的な説明できないですよ。
(食品監視員ではないので、この辺の困難さはうまく説明できません。ごめんなさい)

これは政府の方で早々に規制値の検討を行うべき問題です。
私もこの数値の違いは気になっていて、4月にblogで記事書きました。
http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110407


そして調べてみたところ、平成23年7月28日に改正されてました。

旧ソ連原子力発電所事故に係る輸入食品の監視指導について (改正:平成23年7月28日)
http://www.jfta-or.jp/wordpK/wp-content/uploads/2011/07/110728_sankou.pdf

・・・輸入食品の暫定規制値が370Bq/kgで据え置き!?
混乱状態継続中かよ・・・

現在、EUの規制値は日本と同じなのだから、統一した方がいい気もするんだけどなぁ。
http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/20110411_01.html

(370Bq/kgという数値は、チェルノブイリの事故後に物理的性質、生物学的性質、食品摂取量、輸入食品の割合などを勘案して定められた数値だそうです。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/1-50/pdf/ar-41.pdf PDFファイルの123ページ、年報の113ページから)

Twitter上で東大の早野龍五先生のつぶやき:輸入食品の370Bq/kgという一見不思議な値は,チェルノブイリ事故当時 10nCi(ナノキュリー)/kgを基準値としたため.現在はキュリーに代わってBqが使われるようになったので,それを10nCi/kgをBqに換算すると370Bq/kgとなる)
http://twitter.com/#!/hayano/status/119590061401583616



・検査機器が休眠状態!?
> 都の輸入食品向けの検査装置は計4台。1回30分程度で測定できるが、4台は
>休眠状態で、国内産食品の検査に転用もされていない。都は国に「自前の検査機器を
>フル回転させ食品などの検査を実施している」と説明しているが、セシウムによる
>汚染牛肉などの検査に追われた際も使われなかった。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201109280218.html


まず、輸入食品と国産品の放射性物質の測定について決定的に違うことがあります。

輸入食品:まずはNaI検出器で測定し、50Bq/kg以下だったらNDとする。
50Bq/kgを超えたら、Ge半導体検出器で正確に定量する。

国産食品:Ge半導体検出器で測定する。ただし、牛肉に限ってNaI検出器でスクリーニング検査してもよい。

つまり、輸入食品の検査では、NaI検出器で測定して50Bq/kg以下のものはNDとしてバッサリ切り落としています。機器の定量限界とか検出限界は考慮していません。
(参考文献: http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf 検出限界値は記載されていますが、50 Bq/kg を超えたものについて検出値として数値化した、と書かれています.)
一方、国産食品の測定はすべてGe半導体検出器で10Bq/kg以下まで数字だしてます

この検査の違いがあるので、同列に語ることはできないと思います。



さて、所有台数ですが、さすがにネット上から確認することは出来ませんが・・・

健康安全研究センターで牛肉や野菜果物などの放射性物質は測定されていますので、Ge半導体検出器は使われていることがわかります。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/mon_foods_sea.html
なお、食品の放射能検査データというHPで、9/29の時点でここ3週間さかのぼって確認したところ、54件の結果を出していました。一つの検査機関としては多く出している方だと思いますよ。
http://yasaikensa.cloudapp.net/search.aspx


では、なぜ検査装置が休眠状態というこふに報道されているのか?
私は、健康安全研究センターの年報から推測しました。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2010/pdf/01-29.pdf


それは、「NaI検出器での測定に約30分かかり、最初からGe半導体検出器で測定してもかかる時間はほぼ一緒なので使用していない」

休眠状態となっているのはNaI検出器だと考えると、素直に事情が飲み込めます。
測定時間がほぼ一緒ならば、最初から正確な数値を出せるGe半導体検出器で測定するのも道理です。
実際のところ、Ge半導体検出器で一件あたり現在どのくらいの時間をかけて測定しているのかは不明ですが、仮に1時間以下だったら・・・
容器に詰める作業を考慮すれば、やっぱりGe半導体検出器だけでやるでしょうね。
東京都健康安全研究センターの年報では、Ge半導体検出器にはU-8容器、NaI検出器にはV-11容器と、別の容器を使用している)

(東京都の卸売市場食肉市場で新しく導入する最新機器なら、約10分で終了するらしいので、それなら使う意味もあるでしょうけどね。・・・全頭検査が正しい選択なのかはともかくとして)
【東京】都が肉牛全頭検査、最新機器導入で
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/surprise/20110929-OYT8T00736.htm?from=popin。)

・・・というか、牛肉のスクリーニング検査以外ではそもそもNaI検出器で成績出すの認められてないはず。



ちょっと気になったところの解説みたいな感じで書きました。


最後に、このニュースで私が思ったこと。

輸入食品の検査も大切ですが・・・
東日本大震災から半年ちょっとしか経っていない現時点では、国産食品の検査が最優先ではないでしょうか。
いくら東京都といえども、放射線検査をするには人員予算ともに限界があります。
現時点では、輸入食品の検査中止もやむを得ないと思うのですが・・・。