蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと

2011年7月29日、厚生労働省からの事務連絡

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001krg9-att/2r9852000001krme.pdf

7月の初めに、ツイッターで少しつぶやきましたが、ようやく取り入れてくれたようです。



とりあえず、検査機器の数については、これである程度は解消出来るでしょう。


スクリーニング法といってもNaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータの方は、いわゆるチェルノブイリ事故に関連して行われてきた食品中の放射能測定法ですので、それなりに信頼出来る方法です。

旧ソ連原子力発電所事故に係る輸入食品の監視指導について 
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/hassyutu/2009/dl/091218-1.pdf


この事務連絡についていくつか気になったことを書いていきます。。

・牛肉の前処理
試料調製時間も短縮されるように書かれていますが、これは測定機器と容器次第なので、一概に短縮できるとは言えません。
ゲルマニウム半導体検出器でもU-8容器という約100mLの容器を使用するものもありますし、
NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータでも1L、2Lの容器を使用するものもあります。
また、基本的にミンチ状態にするので、量が多少減ったとしてもそれほど短縮されない気も。

正直、試料調整時間はそれほど短縮されないと思います。


また、事務連絡に記載されている自動のウェル型ガンマ測定器って、それほど普及していないと思うのですが・・・?


・NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータといえども、機種による差がある。

これはちょうどいい論文がありました。
*1

これによると、
アロカ(株)製 Aloka MODEL ND-451Fの検出限界:35  Bq/kg
キャンベラジャパン(株)製 802-3X3の検出限界: 9.9 Bq/kg

機種によってはこのくらいの差があります。
(この両機種は、測定下限値に設定された 50 Bq/kg 以下を満たしていますので使用できます)

この実例のとおり、成績に書かれていたND(Not Detected)が検査機関・検査機器によって異なるということが今までよりも重要になってきます。


・NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータで本当に測定下限値である50Bq/kg以下を満たせるのか?

私は実際にやったことないので、想像混じりの文章になるのですが・・・
正直、厳しいのではないかと思います。

それは、機器の性能もピンキリあるということもありますが・・・
むしろ、事務連絡に書かれているこの文章です。
”一般のNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータは、γ線測定器であり、ヨウ素131 や放射性セシウムを検出することができるが、波高分析機能がないため核種分析はできない
ヨウ素131については、原発事故直後ならともかく、現時点では無視できるレベルに下がっていると考えていいでしょう。
問題は、自然界に普通に存在しているK40の存在です。

ここのサイトによると、牛肩ロース(輸入)のカリウムの量は300mg/100g(=3g/kg)
http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/kalium.html

カリウム40:放射線を出すカリウムで、自然界のカリウムに約0.01%含まれています。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/qanda01.html


カリウム1gに放射能強度が30.4ベクレルのカリウム40があるとのことですので*2、単純に計算してみますと・・・

K40だけで91.2Bq/kgという計算になります。

核種分析が出来ないNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータでは、測定下限値を50Bq/kg以下とすることが出来るとは思えないのですが・・・。



あと、さりげなくですが重要な項目がこの事務連絡には記載されています。
2 対象食品 牛の筋肉

実際にこのようなニュースもあります。

セシウム汚染>肉牛 部位により濃度差 統一指針必要に
福島第1原発事故の影響で放射性セシウムに汚染された肉牛が見つかった問題で、同じ1頭の牛でも部位などにより検出値の違いが出るケースが指摘されている。専門家も「セシウム濃度は部位により異なる」と説明している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110731-00000010-mai-soci


セシウムは筋肉に蓄積しやすいと言われてますので、脂肪分の比率によっては数値がばらつき、ニュースでのような事例も起こりえます。

単純に考えて、赤身肉と脂たっぷりの霜降り肉で同じ濃度になるとは考えにくいですね。
筋肉だけでなく、もっと具体的な部位を指定方がいいように思います。
(モモとか肩とか。脂肪分が一番少ない部位が簡単に採取できればそれがベター?)
・・・実際の現場では、そう簡単にはいかないかもしれませんが。


とりあえず、今回の牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと色々と書いてみました。


(検査機器の数を増やすのも重要だけど、全戸検査の方が効率的だと思う。
前の記事 http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110715/1310739871
食の安全情報Blog http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20110731/1312073272 )

*1:輸入食品中の放射能濃度(平成20年度)、観 公子,大石 充男,下井 俊子,森内 理江,牛山 博文、東京健安研セ年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 60, 193-197, 2009
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf

*2:原子力資料情報室(CNIC)http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/4.html