蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

「都が輸入食品の放射能検査中断」の報道で思ったこと

9月30日、こんな報道がされました。

都が輸入食品の放射能検査中断 国産と異なる基準懸念

東京都が、1986年のチェルノブイリ原発事故以来続けてきた輸入食品の放射能検査を今年度から中断している。理由は、東京電力福島第一原発事故で決まった国内産食品の放射性物質の基準が、輸入品の基準と異なるためだという。放射能汚染に関心が高まるなか、輸入品のチェックはなおざりになっている。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201109280218.html

このニュースは、柳ヶ瀬裕文 東京都議会議員のブログを読んでおいた方がいいでしょう。(たぶんここがこの報道の出発点)
輸入食品の放射能検査を東京都が中止していることについて

柳ヶ瀬都議員のブログでは、”担当部局に理由を聞いたところ、「検査機器が古くなっている」「国内品の検査体制との兼ね合い」等の理由とともに「基準値の問題」がある”とのことだったそうです。
(なんとなくですが、担当部局といっても食品監視員や検査の人じゃなくて、現場に詳しくないお偉いさんが回答していているような?)


議員が聞いた担当部局のお話での理由のうち、なぜかニュースには「基準値の問題」しかでていません。(・・・なぜ?)



今回は、このニュースとブログを読んで、気になったことを書いてみたいと思います。


・基準値の問題とは

これは、現場で取り締まる食品監視員側で特に問題になる事項です。
暫定規制値が国産(500Bq/kg)輸入品(370Bq/kg)で異なる・・・
放射線以外の農薬とか添加物ではありえない自体です。

輸入業者に対して、指導しづらいですよ、これは。
法律的にこう決まってますよと一刀両断することもできますけど、国産と輸入品で違うことに対して、合理的な説明できないですよ。
(食品監視員ではないので、この辺の困難さはうまく説明できません。ごめんなさい)

これは政府の方で早々に規制値の検討を行うべき問題です。
私もこの数値の違いは気になっていて、4月にblogで記事書きました。
http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110407


そして調べてみたところ、平成23年7月28日に改正されてました。

旧ソ連原子力発電所事故に係る輸入食品の監視指導について (改正:平成23年7月28日)
http://www.jfta-or.jp/wordpK/wp-content/uploads/2011/07/110728_sankou.pdf

・・・輸入食品の暫定規制値が370Bq/kgで据え置き!?
混乱状態継続中かよ・・・

現在、EUの規制値は日本と同じなのだから、統一した方がいい気もするんだけどなぁ。
http://www.jetro.go.jp/world/shinsai/20110411_01.html

(370Bq/kgという数値は、チェルノブイリの事故後に物理的性質、生物学的性質、食品摂取量、輸入食品の割合などを勘案して定められた数値だそうです。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/1-50/pdf/ar-41.pdf PDFファイルの123ページ、年報の113ページから)

Twitter上で東大の早野龍五先生のつぶやき:輸入食品の370Bq/kgという一見不思議な値は,チェルノブイリ事故当時 10nCi(ナノキュリー)/kgを基準値としたため.現在はキュリーに代わってBqが使われるようになったので,それを10nCi/kgをBqに換算すると370Bq/kgとなる)
http://twitter.com/#!/hayano/status/119590061401583616



・検査機器が休眠状態!?
> 都の輸入食品向けの検査装置は計4台。1回30分程度で測定できるが、4台は
>休眠状態で、国内産食品の検査に転用もされていない。都は国に「自前の検査機器を
>フル回転させ食品などの検査を実施している」と説明しているが、セシウムによる
>汚染牛肉などの検査に追われた際も使われなかった。
http://www.asahi.com/food/news/TKY201109280218.html


まず、輸入食品と国産品の放射性物質の測定について決定的に違うことがあります。

輸入食品:まずはNaI検出器で測定し、50Bq/kg以下だったらNDとする。
50Bq/kgを超えたら、Ge半導体検出器で正確に定量する。

国産食品:Ge半導体検出器で測定する。ただし、牛肉に限ってNaI検出器でスクリーニング検査してもよい。

つまり、輸入食品の検査では、NaI検出器で測定して50Bq/kg以下のものはNDとしてバッサリ切り落としています。機器の定量限界とか検出限界は考慮していません。
(参考文献: http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf 検出限界値は記載されていますが、50 Bq/kg を超えたものについて検出値として数値化した、と書かれています.)
一方、国産食品の測定はすべてGe半導体検出器で10Bq/kg以下まで数字だしてます

この検査の違いがあるので、同列に語ることはできないと思います。



さて、所有台数ですが、さすがにネット上から確認することは出来ませんが・・・

健康安全研究センターで牛肉や野菜果物などの放射性物質は測定されていますので、Ge半導体検出器は使われていることがわかります。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/mon_foods_sea.html
なお、食品の放射能検査データというHPで、9/29の時点でここ3週間さかのぼって確認したところ、54件の結果を出していました。一つの検査機関としては多く出している方だと思いますよ。
http://yasaikensa.cloudapp.net/search.aspx


では、なぜ検査装置が休眠状態というこふに報道されているのか?
私は、健康安全研究センターの年報から推測しました。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2010/pdf/01-29.pdf


それは、「NaI検出器での測定に約30分かかり、最初からGe半導体検出器で測定してもかかる時間はほぼ一緒なので使用していない」

休眠状態となっているのはNaI検出器だと考えると、素直に事情が飲み込めます。
測定時間がほぼ一緒ならば、最初から正確な数値を出せるGe半導体検出器で測定するのも道理です。
実際のところ、Ge半導体検出器で一件あたり現在どのくらいの時間をかけて測定しているのかは不明ですが、仮に1時間以下だったら・・・
容器に詰める作業を考慮すれば、やっぱりGe半導体検出器だけでやるでしょうね。
東京都健康安全研究センターの年報では、Ge半導体検出器にはU-8容器、NaI検出器にはV-11容器と、別の容器を使用している)

(東京都の卸売市場食肉市場で新しく導入する最新機器なら、約10分で終了するらしいので、それなら使う意味もあるでしょうけどね。・・・全頭検査が正しい選択なのかはともかくとして)
【東京】都が肉牛全頭検査、最新機器導入で
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/surprise/20110929-OYT8T00736.htm?from=popin。)

・・・というか、牛肉のスクリーニング検査以外ではそもそもNaI検出器で成績出すの認められてないはず。



ちょっと気になったところの解説みたいな感じで書きました。


最後に、このニュースで私が思ったこと。

輸入食品の検査も大切ですが・・・
東日本大震災から半年ちょっとしか経っていない現時点では、国産食品の検査が最優先ではないでしょうか。
いくら東京都といえども、放射線検査をするには人員予算ともに限界があります。
現時点では、輸入食品の検査中止もやむを得ないと思うのですが・・・。

スライム肉まんの色

※今回は、半分ネタです

株式会社ファミリーマートは、株式会社スクウェア・エニックスが手がけるロールプレイングゲームの名作「ドラゴンクエスト」シリーズの誕生25周年を記念して、同社監修のもと、人気モンスターキャラクターである「スライム」を象った、「スライム肉まん」(税込170円)を全国のファミリーマート店舗で発売いたします。
http://www.family.co.jp/company/news_releases/2011/110905_01.html

実際のサンプル画像は上記HPをご参照あれ。
ドラクエのスライムを忠実に再現しているようで、生地の色が青いです。

サーチナによると、こう書いてあります。

なお、生地の色については合成着色料を一切使用していない
(一部報道によれば、青はクチナシ色素、口の赤い部分はベニコウジ色素を用いている
とのこと。)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0906&f=column_0906_003.shtml

この青い色はクチナシ色素のようです。
正確には、クチナシ青色素で染められているようです。

多少詳しい方なら、青色という時点である程度想像出来たと思います。
着色料で青色なのは、相当限定されるからです。

合成着色料として
・食用青色1号及びそのアルミニウムレーキ
・食用青色2号及びそのアルミニウムレーキ

天然由来の着色料として
クチナシ青色素
スピルリナ色素

これらしかありません。


いくらスライムを忠実に再現したとはいえ・・・HPの写真を見る限り、食欲わきませんな(^◇^;)
ベススライムなら、色はオレンジだからまた違っただろうに(笑)





ある意味ここからが今回の本番。
・・・ふと思い立ち、東急ハンズへ行って、実際にこの着色料買ってきました。


・左から食用青色1号クチナシ青色素、スピルリナ色素

適当に水で溶かしたものも参考として試験官試験管に入れてあります。(試験官試験管もハンズで買いました) 

私が見た感じでは、食用青色1号は普通の青、クチナシ青色素はブルーブラックという感じ、スピルリナ色素は若干赤みも隠れている色合いって感じでした。



※以下、ややグロ画像につき閲覧注意※






では、さっそく肉まんをスライム色に染め上げてみましょう!(爆)

といっても、肉まんを一から作り上げるスキルなどないので・・・
肉まんは、レンジでチンして食べられる山崎製パンの豚トロ入り塩豚まんを使用。
http://www.yamazakipan.co.jp/brand/03_01.html

加熱前ですが、美味しそうな肉まんです。

早速買ってきたクチナシ青色素を水で10倍以上に薄めて・・・刷毛で塗れない。
しょうがないので、原液を直接肉まんの表面に塗ることにしました。

こうやって〜

こんなんなりました。

・・・一気に食欲が減衰しました_| ̄|○|||

これに濡らして絞ったキッチンペーパーをかけてレンジでチン♪

しっかり染まった箇所とそれほどでもない箇所との差が、また一段と・・・

やっぱり青色だけでは、日本人の感性では食品の色ではないよな〜と再認識しました。

ここでTVとかでは「この後スタッフが美味しく頂きました」となるのですが、
そんなスタッフなどいませんし、いたとしても食べてくれないでしょう。

というわけで、私が美味しく頂きました。表面を染めただけなので、当然中までは色が付いてません。

・・・というか、本当に普通の肉まんとして食べれました。
表面に直接クチナシ青色素を塗りたくったから、少しは変な味がするかと思ったのですけど・・・
嬉しい誤算でした(笑)

アフラトキシンの規制値が変わります

平成23年10月1日より、アフラトキシンの規制値が変わります。

食安発0331第5号 アフラトキシンを含有する食品の取扱いについて
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110406I0010.pdf

食安発0331第6号 アフラトキシンを含有する食品の取扱いについて
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2010/dl/110411-1.pdf

1.アフラトキシンを含有する食品の取扱い
アフラトキシンアフラトキシンB1、B2、G1 及びG2 の総和)を10 μg/kgを超えて
検出する食品は、食品衛生法第6条第2号に違反するものとして取り扱うこと。

要するに・・・

今まで(2011年9月30日まで) : アフラトキシンB1 10μg/kg
これから(2011年10月1日から):アフラトキシンアフラトキシンB1、B2、G1 及びG2 の総和) 10μg/kg

今までは、最も毒性の高いアフラトキシンB1のみを規制していました。

これからは、B1・B2・G1・G2の4種のアフラトキシンの合計値で規制することになります。


それに伴い、試験法も変わります。(平成23年8月16日付で公表されました)

アフラトキシンの試験法について
食安発0816第1号 http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T110818I0010.pdf
食安発0816第2号 http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2011/dl/110816-3.pdf

事務連絡(試験に用いる精製カラム等の一般名と代表的な商品名について)
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2011/dl/110816-2.pdf

トウモロコシ中の総アフラトキシンの試験法について(簡易測定装置を用いるときについて)
食安監発0816第7号 http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/other/2011/dl/110816-1.pdf



さて、ここでアフラトキシンの規制値の過去や雑感などを書いてみます。

日本でアフラトキシンが規制されたのは、昭和46年3月16日からです。(環食第128号)
http://www.ffcr.or.jp/Zaidan/mhwinfo.nsf/5bcb1018b0c4e33d492565f0000dd9b3/76760b49adad4ce749256dfd0017f477?OpenDocument#_j22ask44egok32a8_

文言では、”全ての食品において、アフラトキシンB1が不検出”なのですが・・・
この当時の試験法は薄層クロマトグラフィーで、検出限界が10μg/kgでした。そして、この検出限界値が実質上の規制値となった経緯があります。


最初に決められてから約30年後に、平成14年3月26日に高速液体クロマトグラフィーの試験法に変更されます。(食監発 第0326001号)
http://www.ffcr.or.jp/Zaidan/mhwinfo.nsf/5bcb1018b0c4e33d492565f0000dd9b3/464d711985192da049257241000f333e?OpenDocument

規制値は10μg/kgのまま据え置きでした。


その後、国際的な流れもあり、食品安全委員会も評価書をまとめ、議論の末、今年10月からアフラトキシンの規制値が変更される運びになりました。

今までのアフラトキシンB1だけでなく総アフラトキシンでの規制になったのは、評価書の45−47ページに書かれている事項が大きな要因だったようです。

かび毒評価書 総アフラトキシンアフラトキシンB1、B2、G1 及びG2)食品安全委員会
http://www.fsc.go.jp/hyouka/hy/hy-tuuchi-so_aflatoxin.pdf

一部抜粋 ”中国からの大粒落花生においてはAFB1よりAFG1の汚染が高い傾向が認められた。”

普通はアフラトキシン汚染があった場合、量はAFB1>AFG1であることが多いのですが、
どうも中国産では土壌の関係か、AFB1<AFG1となることがあります。

毒性でいえばAFB1の方が強いのですが、AFG1も立派に発ガン物質ですので、従来のAFB1規制だけでは不十分なことが想定されます。
それで、4種の総アフラトキシンで規制する流れに拍車がかかったと思われます。
(世界的には総アフラトキシンでの規制が多いです)


とりあえず、アフラトキシンでの規制値が変わるので、徒然と書いてみました。


おまけ:食品安全委員会 総アフラトキシンのリスク評価
http://www.fsc.go.jp/sonota/kikansi/19gou/19gou_3.pdf

アフラトキシンのリスク評価について大雑把な内容を把握するにはこちらの方が向いているかも。

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと

2011年7月29日、厚生労働省からの事務連絡

牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001krg9-att/2r9852000001krme.pdf

7月の初めに、ツイッターで少しつぶやきましたが、ようやく取り入れてくれたようです。



とりあえず、検査機器の数については、これである程度は解消出来るでしょう。


スクリーニング法といってもNaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータの方は、いわゆるチェルノブイリ事故に関連して行われてきた食品中の放射能測定法ですので、それなりに信頼出来る方法です。

旧ソ連原子力発電所事故に係る輸入食品の監視指導について 
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/hassyutu/2009/dl/091218-1.pdf


この事務連絡についていくつか気になったことを書いていきます。。

・牛肉の前処理
試料調製時間も短縮されるように書かれていますが、これは測定機器と容器次第なので、一概に短縮できるとは言えません。
ゲルマニウム半導体検出器でもU-8容器という約100mLの容器を使用するものもありますし、
NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータでも1L、2Lの容器を使用するものもあります。
また、基本的にミンチ状態にするので、量が多少減ったとしてもそれほど短縮されない気も。

正直、試料調整時間はそれほど短縮されないと思います。


また、事務連絡に記載されている自動のウェル型ガンマ測定器って、それほど普及していないと思うのですが・・・?


・NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータといえども、機種による差がある。

これはちょうどいい論文がありました。
*1

これによると、
アロカ(株)製 Aloka MODEL ND-451Fの検出限界:35  Bq/kg
キャンベラジャパン(株)製 802-3X3の検出限界: 9.9 Bq/kg

機種によってはこのくらいの差があります。
(この両機種は、測定下限値に設定された 50 Bq/kg 以下を満たしていますので使用できます)

この実例のとおり、成績に書かれていたND(Not Detected)が検査機関・検査機器によって異なるということが今までよりも重要になってきます。


・NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータで本当に測定下限値である50Bq/kg以下を満たせるのか?

私は実際にやったことないので、想像混じりの文章になるのですが・・・
正直、厳しいのではないかと思います。

それは、機器の性能もピンキリあるということもありますが・・・
むしろ、事務連絡に書かれているこの文章です。
”一般のNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータは、γ線測定器であり、ヨウ素131 や放射性セシウムを検出することができるが、波高分析機能がないため核種分析はできない
ヨウ素131については、原発事故直後ならともかく、現時点では無視できるレベルに下がっていると考えていいでしょう。
問題は、自然界に普通に存在しているK40の存在です。

ここのサイトによると、牛肩ロース(輸入)のカリウムの量は300mg/100g(=3g/kg)
http://www.eiyoukeisan.com/calorie/nut_list/kalium.html

カリウム40:放射線を出すカリウムで、自然界のカリウムに約0.01%含まれています。
http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/qanda01.html


カリウム1gに放射能強度が30.4ベクレルのカリウム40があるとのことですので*2、単純に計算してみますと・・・

K40だけで91.2Bq/kgという計算になります。

核種分析が出来ないNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータでは、測定下限値を50Bq/kg以下とすることが出来るとは思えないのですが・・・。



あと、さりげなくですが重要な項目がこの事務連絡には記載されています。
2 対象食品 牛の筋肉

実際にこのようなニュースもあります。

セシウム汚染>肉牛 部位により濃度差 統一指針必要に
福島第1原発事故の影響で放射性セシウムに汚染された肉牛が見つかった問題で、同じ1頭の牛でも部位などにより検出値の違いが出るケースが指摘されている。専門家も「セシウム濃度は部位により異なる」と説明している。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110731-00000010-mai-soci


セシウムは筋肉に蓄積しやすいと言われてますので、脂肪分の比率によっては数値がばらつき、ニュースでのような事例も起こりえます。

単純に考えて、赤身肉と脂たっぷりの霜降り肉で同じ濃度になるとは考えにくいですね。
筋肉だけでなく、もっと具体的な部位を指定方がいいように思います。
(モモとか肩とか。脂肪分が一番少ない部位が簡単に採取できればそれがベター?)
・・・実際の現場では、そう簡単にはいかないかもしれませんが。


とりあえず、今回の牛肉中の放射性セシウムスクリーニング法の送付について思ったこと色々と書いてみました。


(検査機器の数を増やすのも重要だけど、全戸検査の方が効率的だと思う。
前の記事 http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110715/1310739871
食の安全情報Blog http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20110731/1312073272 )

*1:輸入食品中の放射能濃度(平成20年度)、観 公子,大石 充男,下井 俊子,森内 理江,牛山 博文、東京健安研セ年報 Ann. Rep. Tokyo Metr. Inst. Pub. Health, 60, 193-197, 2009
http://www.tokyo-eiken.go.jp/issue/journal/2009/pdf/01-28.pdf

*2:原子力資料情報室(CNIC)http://cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/4.html

牛肉の全頭検査は出来るのか?(BSEと放射性セシウムの検査方法の違い)

福島県産の牛11頭のうち1頭から暫定規制値を超える2300Bq/kg放射性セシウムが検出され、さらに残り10頭からも1530〜3200Bq/kg検出される事例が起こりました。

その後、稲わら(75000Bq/kg)が原因であることが判明いたしました。
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/pdf/caesium_kenshutu.pdf


さらに別の農家からも放射性セシウムが検出された稲わらを与えられていた報告がありました。

福島県によりますと、この農家は福島県浅川町の農家で、県が立ち入り検査を行ったところ、最大で1キログラム当たり9万7000ベクレルの放射性セシウムが検出されたということです。県によりますと、これは水分を含んだ状態に換算すると国の目安のおよそ73倍にあたるということです。わらが与えられていた肉牛は、ことし4月8日から今月6日までに42頭が4か所の食肉処理場に出荷され、内訳は横浜に14頭、東京に13頭、仙台に10頭、千葉に5頭だったということです。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110714/k10014217361000.html

さらに15日、その稲わらを食べた牛の肉から1キロ当たり650ベクレルの放射性セシウムが検出されたそうです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110715/dst11071512090010-n1.htm

肉用牛農家が出荷した全頭について肉に含まれる放射性物質の検査を県と協力して実施する方針を明らかにしたそうです。
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110712/biz11071210580003-n1.htm



さて、ここで福島県農林水産大臣は、全頭を検査する方針のようです。

・・・気持ちはわからないでもないですが・・・

はっきりいって、現実的ではないです。というか無理です。

こう書くと、「BSEでは全頭検査やってるじゃないか!」という人がいると思うので、検査方法の違いを説明したいと思います。


BSEの検査は、エライザ法という検査法です。
抗原抗体反応を利用した検査法です。

検査法の原理 愛媛県食肉衛生検査センターより
http://www.pref.ehime.jp/040hokenhukushi/135shokuniku-cnt/00002541030315/toppics/bse_gennba/bse_genritotezyun.htm

検査の流れ 東京都福祉保健局 食品衛生の窓より
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/niku/bsepict1.html

簡単に流れを書けば、
延髄採取→前処理→抽出→検出・判定

ここで食品衛生の窓にある”判定”のプレートの写真を見て頂きたい。
このプレートは96個の穴があります。写真での説明では2つを陽性コントロールにして、残りを実際の検査に使っているようです。

これがどういう意味なのかというと、同時に最大94頭の検査が出来るということです。しかも、プレートは何枚も同時並行で作業出来ます。
採取場所も延髄と限定されており、量も少量で済みます。
エライザ法は、BSEに限らず様々な分野で使われている検査法なので、測定機器も日本中にたくさんあります。基本知識がある人がトレーニングを受ければ、1日で操作を習得できるという簡便さもあります。
検査機器であるプレートリーダー自体も大きくなく、人の手で動かすことも楽勝です。

つまり、BSEの検査法であるエライザ法は、全頭検査が可能な検査法なのです。
検査人員はもちろん必要ですが、1日で400頭以上の検査を1施設かつプレートリーダー1,2台で対応可能です。



一方、食品中の放射性セシウムを測定するには、ゲルマニウム半導体検出器という特殊な検査装置が必要になります。
参考:緊急時における食品の放射能測定マニュアル
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001558e-img/2r98520000015cfn.pdf

(一応書いておきますが、環境中の放射線を測定するポストモニタリングやサーベイメーターとは別物の検査装置です)


肉1kg以上の量をドロドロのミンチ状になるまで細かく粉砕する必要があります。
専用の容器に隙間の無いように詰めて、重量測定や比重を計算する必要もあります。
また、原則として1週間毎に検出器に何も載せず、2日以上測定し、バックグラウンドを測っておく必要もあります。
放射性物質を扱うので、誰にでもすぐに操作をマスターできるしろものではありません。
外部のγ線を完全遮蔽する必要があるので、鉛板で測定物の周りを覆うのですが・・・そのため検査装置の総重量は1トンくらいになります。
ここまで重量が重いと、装置を設置するにも床に対する荷重を減らすために特別な措置をする必要があります。


そしてなにより、検査装置の構造上、1検体ずつしか分析できないのです。
しかも測定時間が1検体あたり1時間前後かかります。
たとえ、1日24時間フルに検査したとしても24頭しか検査できません。
さらに、サンプルの入れ替えは人力で行うので・・・現実的には検査装置1台で1日あたり10頭前後の検査をするのが精一杯でしょうね。


厚生労働省が発表している検査結果を見ると、牛肉問題が浮上する前で、全国の合計が1日あたり150前後ですから・・・
たとえ検査装置を増やしても、日本中の検査機関を総動員しても福島県産牛肉ですら間に合わないと思います。
野菜や牛乳、魚など他に検査すべき食品も多々ある中で、放射線検査を牛肉全頭検査に割り振る余力は、はっきりいってないです。

整理すると
BSE:1施設で400検体以上検査できる
放射性セシウム:1検査装置で10検体が労働時間的に限界。
厚生労働省が公表している検査結果も、全国で200検体もいかない。

検査方法、検査件数にこんな差があるのに、全頭検査といわれても・・・
もう一度言います。絶対不可能です!


では、どうするのがベターなのか?


今回東京都が検査した牛はすべて同じ農家です。のべ11頭検査して値に大きなふれがないことから、1頭検査すれば、その農家の放射性セシウム汚染レベルは十分に推測できると思います。
つまり、農家につき1頭検査すれば、農家ごとの牛肉中放射性セシウムの傾向が判断できると思います。

そして農家ごとに1頭ずつ検査した結果、例えばこんなふうに今後判定するのはいかがでしょうか?
(東京都の検査結果で最小値が1530、最大値が3200Bq/kgなので、検査結果は最大で2倍のふれがあると考えました)

・250Bq/kg未満:その農家からの出荷を全面的に認める
・250以上500未満:たまたま低い個体だった可能性を考え、あと1,2頭検査。その結果暫定規制値である500Bq/kg以下であったら、出荷を認める。
・暫定規制値を超えた場合:出荷制限。

現状の検査態勢ではこれでも厳しいとは思いますが・・・
多少期間がかかっても、現実的に出来る内容だと思います。

ブログ、移行しました

初めまして、エビと申します。

2011年の3月から、ブログ始めました。

蛭子ミコト:ブログ版(仮) 〜主に食品衛生について〜
http://e-bi.cocolog-nifty.com/blog/cat22614940/index.html


先日、Twitterでぼそぼそつぶやいて、若干名の賛同も得られ、やっぱり移行しようと決断しました。

理由は、
はてなダイアリーの方が食品衛生系のブログが充実していて、お互いにやりとりがしやすいと考えた。
・デフォルトでの文章形式が、個人的に読みやすい。
食品添加物のことで、一つのブログで書いていったら、カテゴリの数がとんでもないことになりそうだったので、分割の意味合いも。


・・・ココログの方で(仮)とタイトルつけておいて良かった、と心から思っています(笑)
では、今後はこちら、はてなダイアリーの方でよろしくお願いします。


ココログの方は、しばらくはそのままにしておいて・・・ある程度したら、食品添加物各論といった感じのブログにリニューアルさせる予定です。)
(わかる人にはわかる話です)

もしも食品添加物が完全使用禁止になったら

このネタ、昔HP(第十三回)のほうで少しやりましたが・・・

Twitterのちょっとしたやりとりから、この内容をリニューアルしようかと思い立ちました。
無添加調理/当社での製造工程では添加物を使用しておりません」
こういうことを書いているメーカーがありますが・・・
こんな文言が宣伝文句になっている現状は、決してよろしいものではありません。

食品安全委員会のこのファイルには、以下のように書かれています。
http://www.fsc.go.jp/monitor/1801moni-saisyuhoukoku.pdf

”「無添加」である旨の表示については、製造業者等の任意の表示ではありますが、

消費者が誤認を生ずることのない表示が求められています。”


・・・正直言って、誤解を生じるような表示例しか見ないと感じるのですが、気のせいでしょうか・・・?

そこで、タイトルのとおり、もしも食品添加物が完全使用禁止になったらどうなるかを考えてみました。

前提条件
食品添加物に分類される物はすべて使用してはいけない。(製造用剤含む)
○キャリーオーバーが起きないよう、大本から厳しくチェックしていきます。
○当然ながらすべての食品、料理、調理法を調べることは無理なので、調べられたものに限定しています。
○極端な例を示しています。

1.添加物がないと絶対作れない食品が消える
食品添加物を必ず使用する食品があります。これらの食品は存在自体が抹消されることになります。例えば・・・

豆腐:いくら天然由来とか自然とか謳っても、にがりは凝固剤という添加物なので、使えません。よって、豆腐を作ることは不可能になります。

ラーメン:ラーメンのあの色や歯ごたえは、かんすい(鹹水)のおかげなのですが、かんすいは食品添加物なので、ラーメンは食べられないことに・・・。

こんにゃく炭酸ナトリウム炭酸水素ナトリウム重曹)、水酸化カルシウムなどの凝固剤が使えないので作れません。
一応、灰で作れるけど・・・これは、厳密にいうと現状の法律で添加物としては認められないと思うのです。添加物として使用できない物を使っちゃいけないと思うんだ。
参考 http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20090418

・赤こんにゃく:三二酸化鉄という添加物を使っているのでOUTです。

ガム:チューインガムは、チクルなどのガムベースという物が基本になっています。ガムベースはすべて添加物なので、これも無くなります。

・コーラ、サイダーなどの炭酸飲料:炭酸の元である二酸化炭素が使えないのでこれも作れません。二酸化炭素食品添加物です。

・ナスの漬物:漬物をつけるとき、なすの紫色が鮮やかになるときに使うミョウバンが使えないので、これも消えます。なお、ぬか床に古釘を入れるという手法も、鉄自身が食品添加物なので、代替手法になりません。

ここまでは命に関わる問題まではいかないのですが・・・

粉ミルク:ここに原材料名が書いてありますが、
雪印メグミルクのHPより
http://www.snowbaby.jp/pure/

例えばL-アルギニン等のアミノ酸、ビタミンC等のビタミン類、クエン酸第一鉄ナトリウム等のミネラル強化剤、これらはすべて添加物です。
赤ちゃんにとって、とても大切な栄養素を加えることができなくなるのです。
添加物を完全禁止にすると、赤ちゃんを無事に育てられない恐れが出てくるのです。
あと、ベビーフードも同様に栄養補充のための添加物はよく使われていますので、粉ミルクと同様です。

2.添加物がないと作るのが困難な食品
ここでの困難は、大量に製造するのが難しくなる、簡単に作ることができなくなる、品質が悪くなるなど、現在の添加物使用時より悪くなるものを意図しています。
いくつかあげてみると・・・

砂糖
とりあえず、三井製糖のHPより、砂糖の作り方
http://www.mitsui-sugar.co.jp/enjoy/dictionary/making01.html
ここの製造工程みると、”石灰””炭酸ガス””活性炭”を使用していることがわかります。この3つは添加物なので、この方法で作ることはできません。
一応古典的な方法で作ることはできますが・・・。


カネダ株式会社のHPより
http://pci.kaneda.co.jp/contents/introduce/process/
抽出溶媒としてのヘキサン、脱酸処理の水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、色素を取り除く活性白土が使用できません。
特にヘキサンがないと生産量が落ちるので、価格が上がるでしょうね。

個人的には、脱酸工程でのアルカリ処理でアフラトキシンなどのカビ毒が分解されることを強調しておきます。(アフラトキシンが分解除去される希少な例)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/kabi/kabidoqa.html

パン、ケーキなど
要するにふくらし粉(=膨張剤)が使用できないので、現在のように簡単に購入できる物では無くなるでしょうし、手作りする人の中には困る人もいるのではないでしょうか?
また、品質向上剤イーストフードも使えないので、販売するにも現在の値段ではペイできないでしょうね・・・。

嚥下補助食品:例えばこんなの。http://www.siraho.jp/products/toromi.html
増粘多糖類食品添加物に当たるので、この製品はダメになります。
これは、一応デンプンや寒天で作れるとはいえ、製品によっては難しいものもあるでしょうね。

ビール、日本酒など
お酒そのものは添加物無しで作れますが、酵母などを取り除くためにろ過をしますが、その際によく使われている珪藻土などのろ過助剤が使用できなくなります。
ろ過助剤の例
http://www.showa-chemical.co.jp/business/pearlite/roka.html

濁ったビールとかもあるので必須ではないのですが・・・
ビールはクリアなものの方が私は好きですねぇ(笑)

ワイン亜硫酸塩が使えないと、何年もののワインは作れません。(何年も持ちません)無添加のワインは新鮮さを味わう物で、寝かせてから飲むワインとは別物と考えた方がいいでしょう。

・調味料:醤油とか味噌とかは、江戸時代に戻った製造方法のものしか作れないでしょうね。あと使える調味料って、コショウとマヨネーズとタバスコくらい?

3.食中毒の恐れが出てくるもの

生野菜殺菌料次亜塩素酸ナトリウムや次亜塩素酸水が使えなくなると、O-157を代表とする腸管出血性大腸菌の感染例がさらに増えてしまうでしょうねぇ・・・。
なお、野菜と大腸菌汚染については、FOOCOM.NETのこのページが役立つかと。
http://www.foocom.net/column/editor/4356/

保存料や日持ち向上剤を使っている食品全般:消費期限が今よりも短くなるのですから、当然食中毒が増えることは推測できます。

蛇足ですが、水産練り製品市場で保存料の使用量が1 年で5%減少すると消費者余剰が189億円減少する(社会(消費者)が189億円の経済損失する)との報告もあるようです。
http://www.ueno-fc.co.jp/foodsafety/pdf/hozonryo_gensho.pdf

油の酸化:現在使用している油では通常起こらないのですが、油の酸化も健康被害を起こすときがあります。これを防ぐ酸化防止剤が使えないのは痛いなぁ・・・。
http://www.tcn.zaq.ne.jp/kanno/public_html/oil.htm

多少極端に書きましたが、これでもまだほんの一部だと思います。

食品添加物を完全に使用禁止にしたら、食に関して様々なところで不利益を招き、場合によっては人の命に関わるということが言えるでしょう。

無添加の方がいいとか、食品添加物はない方がいいと思う前に・・・

食品添加物がもし無くなったらどうなるのだろう?と考え、調べてみてはいかがでしょうか。


最後に、イタリアでの実例が紹介されている記事のリンクを貼っておきます。

FOODCOM.NET FoodScience過去記事 > うねやま研究室
トランス脂肪酸の議論の前に、リスク評価の基礎データの集積を
一部引用
”ほぼすべての食品添加物を禁止したため「伝統的イタリア料理」すらレストランでは作れなくなってしまうという事態になっているようです。”
http://www.foocom.net/fs/uneyama/2553/