蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

プルトニウムの分析について簡単に語ってみた

どうも、エビでございます。
Twitter上で、なんかプルトニウムについて色々騒がれているな、と思っていたら、以下のニュースがあったのですね。(本日はほとんどTV見ていない)

プルトニウム漏出も調査=土壌採取し分析−東電
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011032700148
 東京電力は27日、福島第1原発各基の原子炉から、毒性の強いプルトニウムが漏出していないか調べるため、同原発敷地内の土壌を21、22両日に採取したことを明らかにした。
敷地内の5カ所で土壌を採取、日本原子力研究開発機構と日本分析センターに回された。分析は23日から始まり、結論が出るには約1週間かかる。同様の土壌採取は28日からも週2回続けるという。

一言:このときの会見で、東電が分析機器を持っていないことも判明したため、ネット上では非難の嵐で、さらに混乱状態に拍車がかかっているようです。



エビは放射線等の専門家ではなく、詳しくもないので・・・
プルトニウムの人体への影響等については信頼できるであろうページのリンクを貼るに留めます。
原子力・エネルギー教育支援総合サイト「あとみん」より
プルトニウムの人体影響

で、多少わかる内容であるタイトルのプルトニウムの分析について語ります。
これは、今回は土壌中なので、どちらかの方法でやっているものと思われます。

放射能測定法シリーズ28 環境試料中プルトニウム迅速分析法(平成14年)
放射能測定法シリーズ12 プルトニウム分析法(平成2年改)

(今後食品中の測定をする場合は、緊急時における食品の放射能測定マニュアルに従います)

で、シリーズ12の方法である、分離精製した溶液をステンレス鋼板上に蒸着・・・じゃなくて電着させてα線計測するなんて方法は食品分析を生業としている人間には語れないので

今回の測定はシリーズ28 環境試料中プルトニウム迅速分析法で行っているという前提で記述します。
迅速性からいっても、こちらを使っている可能性が高いです。
(シリーズ12方法では前処理だけで30-40時間、シリーズ28方法では測定時間含めて14時間と書かれています)

・・・といっても、この迅速分析法は誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MSという方法で測定します。
分析に多少携わっている方ならおわかりでしょうが、これは金属を分析するのに使用する機器です。
残念ながらエビは、金属の分析といったらナトリウム、カリウム、鉛について乾式分解後、原子吸光計で分析したことしか経験がないので・・・(^◇^;)

簡単に分析の前処理は大変だよ、という趣旨で一般の人にわかりやすい形で書いていきます。
分析がわかる方は、素直にリンク先のシリーズ28を読んでください。

1.マイクロウェーブ高温灰化装置などを使って500℃で100分加熱する。
○マイクロウェーブとは・・・すっごく簡単に言えば、超強力な電子レンジです。
基本的に有機物は分解する必要があるので、まずは灰にしてしまいます。

2.テフロン製の容器に移し、硝酸−フッ化水素酸混合溶液を加え、プルトニウム(Pu-242 標準溶液)も加える。
○ここで出てくるフッ化水素はとても強力な酸で毒物であり、ガラスを溶かす性質があります。そのため、酸に侵されないテフロン製の容器が必要になります。Pu-242 標準溶液を加えるのは、このPu-242の量を元に他の放射線プルトニウムを計算するからです。

3.再びマイクロウェーブ分解装置で分解する。(装置にもよるけど、5分から30分くらい)
その後、水で30分間冷ます。
○冷まさないと危険なため検査作業が続けられません。

4−1.さらに別のテフロンビーカーに移した後、溶液をホットプレート上で蒸発濃縮させる。(時間は書いてないけど、最低1時間はかかる気がする)
4−2.移す前のテフロン製容器に再び硝酸−フッ化水素酸混合溶液を加え、3の工程を
もう一度行う。
○テフロン製容器に残っているPuを取り逃さないようにもう一度同じ作業を繰り返すというところ?

5.テフロン製容器の中身を硝酸で洗いながら、先ほどのテフロンビーカーに加える。
○テフロン製容器にPuが残らないように洗います。

6.亜硝酸ナトリウム溶液(20W/V%)5mlを加え、かくはん後、ホットプレート上で約30分間加熱する。この作業をさらに2回行う。
○Puの化学形態をすべてPu4+にする重要な工程。この形態にしておかないと分析できない。

7.硝酸(3十2)を加え液量を30〜40mlとした後、ホウ酸0.3gを加え、加熱・溶解後、室温まで放冷する。
○ホウ酸を加えることにより、今後の工程で邪魔になるフッ素(フッ化水素酸由来)の影響を抑えることが出来る。

8.固形物を取り除くためフィルターで濾過する。

・・・ここまでが前処理(その1)です。
これでようやくプルトニウム分析用試料溶液ができました。

次からは、プルトニウムのみをきちんと測定するために、陰イオン交換樹脂カラムの作業があります。

9.先ほど出来上がった試料溶液を陰イオン交換樹脂カラムに通し、硝酸30mLで洗う。
○この工程で主にウランを洗い流します。ウランを洗うのは、ウランの水素化(238UH+)がm/z239(Pu-239)の測定に影響を及ぼすからです。

10.塩酸で洗浄する。
○これはトリウムを洗いながすため。ここも30分。

11.ヨウ化アンモニウム(5W/V%)-塩酸混合溶液(容積比 3:7)を流し、樹脂に吸着したプ
ルトニウムを溶離する。しつこく30分かかる。

12.硝酸を加え、蒸発乾固する。
○突沸を起こしやすいので、時間かかります。たぶん1時間以上。

13.酢酸(4mol/L)10mlを加えて溶かし、これを別の種類の陰イオン交換カラムに通して、酢酸溶液20mLで洗浄する。
○ここで残ったウランを完全に取り除きます。正確には、ウランはイオン交換カラムに残って、プルトニウムだけ下に落ちてきます。

14.ホットプレートで蒸発乾固させて、硝酸(1+13)5mlを加えて溶かす。
これを硝酸(1;13)を用いて25mlメスフラスコに移し、さらに硝酸(1+13)を加えて定容とし、ICP−MS測定試料溶液とする。
○これでようやICP-MSで分析できる状態になりました。

後はICP-MSで分析するだけです。

長々と書きましたが・・・
プルトニウムの分析をするには、前準備としてこれだけの工程があるということを伝えたかったのです。

単純に考えて、(前処理1)で1日、イオン交換カラムの作業と分析で1日はかかる気がします。現実は、検査上実際にやらないとわからないポイントもあるでしょうから、実際は1,2日の猶予期間もほしいところ。

あとのデータ解析、書類作成等を考えると、検査成績を出すにも1週間は最低レベルとして時間的に欲しい気がします。

これと比べると、放射性ヨウ素セシウムの前処理はとっても簡単なほうです。
・・・基本的には容器につめるだけですから(^◇^;)
(といっても、実際の分析上の注意点とかを考えると、決して楽な検査ではありません)