蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

食品衛生学会を聞いてきた

先日、東京のタワーホール船堀で開催された食品衛生学会で色々話を聞いてきたので、放射能に関連した内容をある程度抜粋して紹介したいと思います。
()内は、私の個人的な感想コメントです。
また、私が聞いてメモして記憶に残った内容紹介なので、講演者の言いたいことすべてを書けているわけではないので、そこはご容赦ください。

第103回 日本食品衛生学会学術講演会のお知らせ・内容
http://www.shokuhineisei.jp/meeting/index.html#k103
プログラム
http://www.shokuhineisei.jp/meeting/103_prg.pdf

シンポジウムI 2.放射性セシウムの土壌等から農作物への移行

ゲルマニウム半導体検出器でのお話。原発事故直後は、CsやI以外のピークがたくさんあった。いくら分解能が高い検出器といえど、正確な測定は困難。
→同じサンプルを日を変えて測定し、各放射性物質半減期から算出した。

・原則として、セシウムは土からは植物に吸収されにくい。言い換えれば、セシウムは土壌に吸着している。

・小麦から高めの数値が出たときがありました。これは、葉っぱに降り注いだものが種子に移行した。

・土壌−土壌液液分配係数(Ka値)という指標があって、この数値が高いと土壌に吸着しやすいとのこと。
 Cs :3000L/kg
 K  : 10L/kg

・・・これだけ差があるとのこと。
そして、セシウムは表層1−3cmの範囲にとどまっている。土壌の下の方にはほとんど行かない。

・今後のポイント
・表面に降り注いだものは樹木の中に吸収されてとどまる。

留まるイメージは、こんな感じ。 常緑樹>落葉樹>>>草

・木の中に蓄えられたセシウムは、ある程度数値が下がるまでに数年かかる。
(果物系はある程度継続して検出されるかも?)

・キノコ
福島県では、農家の意識が高く栽培するときに注意しているので、高濃度になりにくい。
福島県以外:福島ほど注意していないため、汚染された原木を使用して高濃度になっている。
福島県の農家さんは、ちゃんと勉強しているということ。そして、その他は残念ながら不勉強と言わざるを得ないかも)

シンポジウムI 3.食品中の放射性物質調査の方法

理論的なお話が中心でした。

前に話題になったこともある、1Bqあたりの質量を一覧表にしてくれてました。

I-131 : 220 ag
Cs-134 : 21 fg
Cs-137 : 310 fg
Sr90 : 200 fg
Pu :  1.6 pg
U-235 : 13 μg


(・・・この単位を見てわかるように、通常の化学分析では少なすぎてCs137やI-131,Sr-90を測定するのは不可能。
単位の意味合いは、下記を参照あれ。)
http://www.wdic.org/w/SCI/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0

ただし、α線核種であるウランはμgオーダーなので、ICP-MSで測定することが可能。
(オーダー的にギリギリだけど、濃縮すればPuならなんとかなるかも?)

あとは不確かさとか計数誤差とか2項分布とかポアソン分布とかガウス分布とか・・・
統計的なお話。

シンポジウムI 4.販売・流通からみた現状 主に日本生協連の対応から
生協のスタンス
1.国レベルの緊急事態→独自の判断はせず、国に従う。ただし、意見見解は伝える。
2.原発事故は終わっていない&放射性物質の動向はまたわからない
(まだ不明な部分も多いよ、との意味合いと解釈しました)
3.組合員の不安に応える

検査の目的
①行政モニタリングを補強するという考え
②コープ商品の管理状況を確認
③不安に対して応えていく

検査対象
プライベートブランド
②行政のモニタリング対象地域(17都県)を基本に行う

検査するにあたり、標準作業書の作製や、NaIでスクリーニング→Geで確定というしっかりした流れ。

陰膳調査もやった。
250サンプル中、11サンプルから検出(福島10、宮城1)
中央値は1.40Bq/kgであった。(他で行われている調査と比べても、同様の結果だと思われます。)

シンポジウムI 5.東京都健康安全研究センターでの取り組み

・NaIでスクリーニングを行い、50Bq/kg以上検出したとき、または測定下限値の数値の合計が50以上になったときはGeで確定検査。

汚染防止対策のために・・・
機器のある測定室と前処理室を区分した。
履き物は履き替える。
使い捨ての白衣手袋マスク帽子を着用
Ge半導体検出器はクリーンルーム内に設置。
・・・というくらいに放射性物質に汚染されないよう、気を使っている。
(スライドには書かれてなかったけど、実際にはさらに丁寧にやっていると思う)

NaIとGeのスペクトル比較がわかりやすかった。
特にCs134の定量に違いがありました。
Ge半導体検出器ではエネルギー効率が最もよい605keVで測定、
NaI検出器では、605KeVではCs137のエネルギーである662keVとの分離が不十分なので、より分離している796keVのエネルギーで測定していました。
(学会は写真撮影不可のため、画像なしなのが残念です)

一番大変だったこと:魚が来たとき。可食部とそうでない部分を分けるのが特に大変だったとのこと。
(魚を手際よくさばくなんて、通常の化学分析屋が慣れているわけもなし・・・)

後は、放射性物質関連の発表から抜き出します。
A-8
一般食品でも、乾燥食品は容器への充填率が低く、測定下限値が確保出来ないためスクリーニング検査は困難。
肉や魚は約1、果実根菜も約1、米や麦で0.85だけど、乾燥物は0.5以下。
(乾燥物は、無理してNaIでスクリーニングをせず、最初からGe半導体検出器で測定するしかないのかもしれない)

A-10
牛肉の部位別
ネックや、ももといった、筋肉が多く脂肪の少ない部分が検査には適している。

A-11
調理によるセシウムの変動を調査。
干し椎茸は、水戻しで約半分に減った。(ただし、今の基準では水戻ししてから測定するのが正式な方法)
牛肉は、焼くだけでも10%減る。
あげると20%減。
ゆでると60%減る(ゆで汁に移行)
煮込むと、80%が煮汁に移行

(個人的には、淡水魚を食材とするときに応用できないかと思ったりする。)

A-13
麦に関する話。
セシウムが麦に取り込まれると、外皮部分であるふすまの方に約8割存在した。
ただし、シンポジウムⅠ−2での話のように、葉から吸収されない今の状態では、高い濃度にはならないと考えられる。

A-14
福島の養鶏の話
本来は、福島に450万羽いたそうな。震災後は300万羽。いなくなった150万羽は福島県浜通り地域・・・

牛肉の汚染問題以降、風評被害が大きくなったとのこと。
養鶏ではセシウム汚染する要素が全く無いので実際は全く問題なし。
(汚染の要素がない:室内でのケージ飼い、餌は輸入物、水も問題ないなど)


パーキンエルマーのランチョンセミナ−:ICP-MSによるウランの測定
実は、震災直後から、福島大学に測定機器の無償提供をしていた。
(パーキンエルマーの測定機器の他、日立アロカのシンチレーションカウンターなども。これはもっと宣伝してもいいのに)
天然にウランは普通に存在し、普通のU-238が99.2745%、放射性物質であるU-235は0.720%の比率で存在している。
ウランをICP-MSで測定し、この比率であるか否かで原発由来かどうかを判定する。結果、測定結果はすべて天然由来の比率と一緒であった。
(ただし7−80kmの範囲で。7km未満の範囲では試料が採取できなかったため不明とのこと)
(2011年末に、学会誌である分析化学へ論文が掲載されたので、詳しく知りたい方かつ読める方は読んで見てください)
(あとICP-MSの原理とか理論の話もありましたが、あまりにも専門的なので省略)


簡潔にしたつもりが長文になってしまいましたが・・・
それだけ内容が盛りだくさんだったということでした。

注:今回は学会の講演内容を紹介した内容ですので、ブログ主である私個人に質問されても回答できないケースがあります。ご承知置きください。