蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

安易に規制値を下げていいのか?(パブリックコメント編)

さて、前回の検査編に続き、今度はパブリックコメントの内容について疑問を呈したいと思います。

乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(食品中の放射性物質に係る基準値の設定)(案)等に関する御意見の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495110333&Mode=0
詳しくは、パブリックコメントのページの下にある”関連資料、その他”にある「食品中の放射性物質に係る基準値の設定 」を参照してください。

ここの関連資料である”食品中の放射性物質に係る基準値の設定”を中心に検討したいと思います。

食品区分の範囲について
一般食品…あまりにもアバウト過ぎるような…?
嗜好品とか特産品で、元々食べる量が少ないものとかその地域で伝統的に食べられているものは別扱いにするとかしてもいいと思う。
外国の例として、例えばスウェーデンのトナカイ肉がありますし。

飲料水と牛乳については…今でも元々Ge半導体検出器でないと公的な数値で測定できないから別にこれでもいいかなと思っていたりする。
数値は現状の汚染度合いから見ても下げすぎだと思うけど。

乳児用カテゴリーに意味はあるのか?
一見、赤ちゃんを守るために見えます。母親達の不安を解消するように見えます。
ただし、2ページ目の限度値を見てください。
1歳未満が460Bq/kgと、大人や妊婦よりも一番高い数値になっています。
これは、放射性セシウムは1歳未満では生体半減期が短いのと食事量は大人と比べて少ないので、放射性セシウムによる被曝は受けにくいからと考えられます。

たしかに、「小児の期間については、感受性が成人より高い可能性」はあります。
でも一方、感受性が高いのは高線量のときだけで、低線量では差がなかったとの報告もあります。

なにより…計算して数値を表にして、1歳未満が一番高いという結果なのに違和感覚えなかったのかな…?
※(もしチェルノブイリで実際に甲状腺ガンで問題になった放射性ヨウ素が今でも残っていたら、もちろん厳しい規制値にする意味があります。)

基準値の考え方について
えっと…
この2ページ目だけでは、細かい計算過程が見えないので、別の資料から考えてみます。
薬事・食品衛生審議会放射性物質対策部会報告書のほうを読んでみます。(その他適宜必要となったデータはそのつどリンク貼ります)

<一般食品の限度値は以下の式により算出される
(「一般食品」の限度値)(Bq/kg)
=(「一般食品」に割り当てられる年間線量)(mSv/y)
÷Σ(各食品分類での対象核種合計線量係数)(mSv/y)
×(当該食品分類の年間摂取量)(kg/y)
×(流通する食品の汚染割合)>

ここでここの計算に使われている仮定に疑問が…。
1.不検出割合のみで計算している。
不検出割合ももちろん重要ですよ。ただ、これではNDではないけど数値が出たものの濃度が全く反映されていないのですよね。(10でも50でも100でも)
実際の汚染濃度も考慮したほうがいいのでは?
例えば摂取量が同じ食品AとBがあったとして、平均値がA:10とB:100だとしたら、10倍の差がでるわけですよね。汚染率が同じでも、濃度が違えば影響は全然違うと思うのですが。その辺の実情が計算に反映されていないよなぁ。
また、”現在の暫定規制値において「年平均濃度とピーク濃度(最高濃度)との比」を50%としていることを踏まえ”

このレポートで、現在の汚染率が最大で30.7%とされているのですから、前例にならわず素直に30%で計算すればいいのではないでしょうか?
(この汚染率もBqの量は考慮されていない)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001yw1j-att/2r9852000001ywdh.pdf

というか、そもそも暫定規制値の500Bq/kgで数%、新規制値の100でも全食品の平均では10%前後なのになんで50%と高い仮定をするのか個人的には疑問であります。
(関連資料である”食品中の放射性物質に係る基準値の設定”の7ページを参照のこと)

「乳児用食品」の範囲について
先に述べたように、個人的にはわざわざ設定する必要はないと考えます。

「乳」の範囲及び「乳児用食品」「牛乳」の基準値について

現在の牛乳の検査結果をみてください。ほとんどNDです。
検査的にみると、現時点でもGe半導体検出器で検査することになってますし、実際も50Bq/kgを大幅に下回っているので、実情問題ない数値とも言えますが…
万が一全て汚染されているという想定は、再び原発事故が起きたときでしかありえないと思うので過剰に安全率を見積もっていると思います。

製造、加工食品の基準値適用の考え方
乾燥キノコ類のように、水戻しを行った状態で基準値を適用すること自体は問題ないです。
ただ、検査する側からすると…乾燥状態で検査して、その後シイタケなら0.2、マツタケなら0.3と行ったような換算係数を定義して欲しいです。(注:この数値は適当です)
毎回水戻しとかやったら検査に時間はかかるし、人によって時間が違ったりすると数値も変わってしまうしで混乱しますので。
あと、もっと具体的に品目指定してください。(さすがにこのような食品を最初からすべて列挙するのは無理でしょうけど、それは後で追加することでフォローするしかないかな)

抽出して飲む・使用する
これ、お茶がどうしても気になるんだよなぁ。
メジャーな用途ではないし、大量に食べることもないのはわかっているけれど、お茶の葉ってそのまま料理で使うことがあるのですよね。
http://d.hatena.ne.jp/ebi_j9/20110601

まあ、お茶の場合は圧倒的に飲む用途ですから、飲む方の基準値で問題ないと思うのですが…
他に同様のものがあるかどうかわからないのですが、抽出するのとそのまま食べるのと両方のパターンがある場合はどうするのでしょうかね?

あ、あとお茶に関してはキノコと同様に換算係数を定義して下さい。


基準値の食品を摂取し続けた場合の被ばく線量

これ、なんで飲料水と牛乳、乳児用食品は汚染率100%、一般食品は50%として計算しているのでしょうか?
約1年検査してきて見えてきている実際の汚染率からかけ離れすぎだと思いますよ。
せっかく検査して実際の汚染率がわかっているのですから、素直にその数値を適用すればよいと思うのですが。


色々と疑問を書いてきましたが…最後に私の個人的な見解を書いておきたいと思います。
原発事故からまだ1年の段階で、なぜ早急に規制値を下げなければならないのでしょうか?
チェルノブイリほど酷い事故ではないにしろ、レベル7までいった大事故なのですよ。
というわけで、個人的には…
現在出ている様々な測定データから、規制値を変えなくても食品由来で年間1mSv以内に納められるのは明らかだと思うので、
2012年度の間は現在の暫定規制値である500Bq/kgを維持するのが一番混乱が少ない選択だと考えます。数値を下げるのはそれからでも遅くないと考えます。

(数字上のお遊びに見えるかもしれませんが、被ばくレベルを1mSv以内にしても、汚染率を50→10%にすれば500Bq/kgになります)
似たような計算は別の方も書かれています。(こちらの方が計算丁寧です)
アカチバラチの日記 食品の基準値が見直される話
http://d.hatena.ne.jp/akatibarati/20111128