蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

安易に規制値を下げていいのか?(検査編)

今度の4月から、食品中の放射性物質の規制値が変更される予定です。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495110333&Mode=0
詳しくは、パブリックコメントのページの下にある”関連資料、その他の食品中の放射性物質に係る基準値の設定 ”を参照してください。

とりあえずそれを報道したニュースも。
http://news.mynavi.jp/news/2011/12/23/017/index.html

新規制値については、松永さんがFOODCOM.NETで批判しています。

新基準は容認できない! 放射線審議会は「コープふくしま」の声をどう聞いたか
http://www.foocom.net/column/editor/5489/

消費者の安心のための新基準値でよいのか?
http://www.foocom.net/column/editor/5500/

また、毎日新聞の小島さんは”現行の値「緩い」は誤解”ということを説明する記事を書かれています。

食品の放射能規制:新基準、海外より厳しく 現行の値「緩い」は誤解 改定後はより子供に配慮
http://mainichi.jp/life/food/news/20111219ddm013100039000c.html


私もこのお二方の考えに賛同です。


今回は、自称分析屋として…
安易に規制値を下げると、検査はどのようになってしまうかについて書いていこうと思います。
ここでは、一般食品の100Bq/kgについて考察します。



H23.12.2〜9、一部8月上旬現在の調査結果を含む検査機器の台数はこのようになっています。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2012/01/13/1315036_4.pdf

Ge半導体検出器が216台、NaI検出器が227台です。
ここで、NaI検出器はスクリーニング検査用です。
食品中の放射性セシウムスクリーニング法
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001us4f-att/2r9852000001us94.pdf

ここで、暫定規制値の500Bq/kgでの場合での機器に求められる要件を抜き出しました。
測定下限値 50 Bq/kg 以下であること
スクリーニングレベル 規制値の1/2(=250) 以上

さて、ここで規制値が100Bq/kgになったらどうなるでしょう。
今までNaI検出器の測定の限界値である50が、いきなりスクリーニングレベルに跳ね上がります。
食品分析では、信頼出来る数値を出すために、規制値の1/10を測定限界とするケースが多いです。
新規制値だと…10Bq/kgになる可能性が高いと予想しています。


…正直言って、現在使用されているNaI検出器(正確にはNaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータ)では、この数値をクリア出来る機種はそんなに無いと思います。
厚生労働省の結果見ると、NaI検出器での検査の定量下限はCs134+Cs137で40〜50Bq/kgがほとんど。)
(なお、このオーダーは、NaI(Tl)シンチレーションサーベイメータでは検査不可能な領域です)

測定時間を延長すれば可能かもしれませんが、1検体あたり1時間、いやそれ以上かかる計算になります。今までよりも検査数が減るのは確実です。
(おそらく現在より半減する)

東大の早野龍伍先生も気になるツイートしていたし…
”食品中の放射性物質の新基準,一般食品100Bq/kgに関し,厚労省はCODEXガイドラインを当てはめ,検出下限を基準値の1/10の10Bq/kg以下,定量下限を1/5の20Bq/kg以下にしようとしていると漏れ聞く.これを満たせない食品放射能検査器が多い現状を知ってのことか?”
https://twitter.com/#!/hayano/status/161464996793036801


2012.1.27追記
1/27に、スクリーニング法の改正の情報が出てきました。
食品中の放射性セシウムスクリーニング法の一部改正にかかる意見募集について
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000021b3t.html

測定下限値:25 Bq/kg(基準値の1/4)以下
スクリーニングレベル:基準値の1/2以上

先日書いた予想と異なり、下限値が25Bq/kgでした。
まだNaI検出器でも可能な数値に落ち着いたかのように見えます。

・・・ただし、現在NaI検出器で成績が出されているものの数値はCs134+Cs137で低くても40、ほとんどが50です。
Cs134単独で25、Cs137単独で25Bq/kg…
さて、これがどういう意味かというと…
スクリーニング検査を同様に行うのであれば、感度を倍にする必要があります。(Cs合計で25、単独では12.5)

現在使われているNaI検出器、ほとんどがサンプル量を増やして感度を稼ぐことができないため…
測定時間を4倍以上にする必要が出てきます。
(スクリーニング検査が10分なら40分、20分なら80分かかることになる)

参考:定量下限と測定時間・サンプル量の関係
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/data_reliance/pdf/rad_kensyu.pdf
(このPDFファイルの34番目に説明があります)

つまり…
現在の暫定規制値である500Bq/kgでは、現状の検査数が確保できますが…
新規制値(予定)である100Bq/kgになると
事実上Ge半導体検出器でしか検査できないことになります。
NaI検出器では時間がかかりすぎ&測定の二度手間になるため、所有している機関ではGe半導体検出器のみで検査するでしょうし、
NaI検出器だけ所有している機関では検査数が1/4以下になります。

さらに言えば、高分解能を誇るGe半導体検出器ですら、現在の測定時間(30〜1時間?)でギリギリセーフという状況です。


 NaI検出器を購入した機関は1年もしないうちに役立たずになってかわいそうという面もありますが…(^◇^;)

新規制値になると、検査できる機器の数が減り、検査総数が減ります。

検査数が減ると、汚染実態を把握し、それに対応することが難しくなります。

季節も巡り枯れ葉も散り、今後お米のように予想外の汚染が出る可能性もあります。
魚介類のように、調査がまだ足りないジャンルもあります。

検査台数が減ると、早野教授が最初に給食の調査で提唱し、朝日新聞社京都大学でも行ったような調査用途も検査に回され、
内部被曝の実態把握調査も困難になります。
実態調査の例
http://hes.med.kyoto-u.ac.jp/Fukushima/achievement.html
http://www.asahi.com/national/update/0118/TKY201201180799.html

新規制値になると、検査総数が減少するのは確実だというこの事実…どうお考えになりますか?


<個人的独白>
3月が来てようやく原発事故から1年。
緊急事態期は過ぎたと思いますが、たった1年で平常時レベルに戻すのは色んな意味で無理があると思います。
今年は事故収束後の復旧期にあたると思いますので、安易に規制値を下げる必要性はないと考えます。

復旧期などの考えは、こちらを参照のこと。
http://www.nirs.go.jp/data/image_icrp.gif
放射線医学総合研究所のHPより、放射線の目安(ICRP)」


(暫定規制値の500Bq/kgでもすでに十分な安全率でもあるし)
http://www.aist-riss.jp/main/modules/column/atsuo-kishimoto010.html