蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

基準値だけで判断してはならない(後半)

前半の続きです。


ここで、基準値の決め方とADIの関係について見てみたいと思います。

・実際の食品の摂取量からTMDIを算出し、ADIに対する比率を計算してADIを超えていないことを確認している
参考”のPDF18枚目より引用
「各食品について基準値案の上限までクロチアニジンが残留していると仮定した場合、
国民栄養調査結果における各食品の平均摂食量に基づき試算される、1日当たり摂取する
農薬の量のADI に対する比は、以下のとおりである。詳細な暴露評価は別紙3(PDF26枚目以降)参照。
なお、本暴露評価は、各食品分類において、加工・調理による残留農薬の増減が全くないとの仮定の下に行った。」
TMDI(理論最大1日摂取量)試算は、基準値案×各食品の平均摂取量の総和として計算している。

実際に食べる食品の摂取量を、農薬を最大限使用してかつ最大限残留している場合の値で計算しています。

この表のように、いずれもADIを超えることはありません。

ほうれん草を○○g食べた場合などのような仮定の計算ではなく、実際の食品の平均摂食量から計算して超えないことから…
最大限残留していてもクロチアニジンによる健康被害はまずないと考えられます。

ここまでは、ADIを使用した安全性の説明ですが・・・
実は、この基準値設定の流れで、先日の報道で出てきたARfDという単語は一回も使われてません。


そもそも、食品中の農薬の残留基準値の設定についてどのように決めるかというと、
厚生労働省はこのようにしています。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/dl/s0127-15s_0001.pdf

これについて、経緯を含め詳しく説明されているページがあります。
農業環境技術研究所 永井孝志さんのページおよび資料)
http://shimana7.seesaa.net/article/211141044.html
http://shimana7.web.fc2.com/research/PDF/g3-6.pdf

一部引用します。
「基準値は農薬を適正に使用していればこの値は超えないだろうという意味を持つものであり」
「基準値超過の際に適切に農薬を使用するような営農指導などには有用ですが、リスクがあるかどうかの判断には役にたちません

簡潔に整理すると、こういうことになります。
農薬の基準値はADIも考慮して決めているが、基準値そのものはリスクの判断には役に立たない


では、リスクの判断はどうするのか?そこで用いるのがARfDです。ARfDの値を目安に健康影響がどうかを考えます。

ARfDを用いる計算は、実際に食品に残留していた時のリスク評価として用いるものなので、基準値と比較するとおかしいことになります。
今回の報道はまさに間違った使用例でしょう。


そもそも、クロチアニジンほとんど検出されていない

実際に重要なのは、残留実態はどうなのか?ということです。
過去のクロチアニジンの調査結果を見てみます。

食品中の残留農薬検査結果の公表について(平成17〜18年度)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/121029-1.html
平成18年の詳細
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/zanryu2/dl/121029-1-21.pdf

ほうれん草のクロシアニジンは、75件中1検体のみ0.05ppm検出。(H18時点の基準値は0.02ppm)

前半で、「実際の残留量はさらに少ないことが想像される」と書きましたが、現実に少なかったです。
実際には、ほとんど検出されていないのです。
基準値設定に計算したものよりも、TMDI/ADI比はとても小さなものになっています。
現実の数字からみても、危険性を煽る報道には問題があると思われます。

2014.5.27追記
コメントにありますようにH18年時点では、ほうれんそうには適用登録されていません。
なので、上記の記述は、基準値が制定されたあとの実態は反映されないです。

なので、参考になると思い、H18年の調査で作物を問わずクロシアニジンを検査した結果を集計してみました。
検査総数:5788
 検出数: 32
 検出率:0.55%
検出されたものを探す方が疲れるくらい、検出率低かったです。
なので、危険性を煽る理由はないと判断し、修正まではしませんです。


…まあ、クロチアニジンの基準値を上げた明確な理由が検索しても出てこないのも、余計不安をあおっている一因かと思います。
今後は、国なり企業なりがその辺の情報も具体的に挙げていって欲しいと思います。


まとめ
1.農薬のADIとARfDは各種動物実験などを元にして決められますが、両者は使い方が違います。

ADI :残留基準値の基本データ
ARfD :実際に摂取したときのリスク評価の指針として

これからは、このように考えていきましょう。


2.実際の残留実態調査では、ほとんど検出されておらず、わずかに検出された濃度も0.1ppm以下と、とても少ないです


蛇足:前回の計算…実はARfDの議論には全く関係ない計算です。農薬の使用時にどういう計算をするのかの参考として頂ければ幸いです。