蛭子ミコト:ブログ版second

主に食品添加物や食品衛生のことについて書いていくブログ

基準値だけで判断してはならない(前半)

先日、こういう報道がありました

ほうれん草40gで子どもに急性中毒リスク 国の残留基準緩和案で農薬漬けになる野菜はこれだ!
http://www.mynewsjapan.com/reports/1977
ネオニコ農薬2000倍緩和、裏で住友化学が動く
http://www.alterna.co.jp/12527
署名12,739筆を厚生労働省に提出――ネオニコチノイド系農薬の食品中への残留基準の規制緩和に反対
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/press/2014/pr20140218/

記事を要約すると、ネオニコチノイド系農薬であるクロチアニジンの新しい基準値は、ほうれん草なら2株(40g)で急性毒性のリスク発生の恐れがあるので問題だ!ってことです。

数値を出して計算してみますと…
EUでのクロチアニジンの急性参照用量(ARfD)は0.1mg/kg体重/日、ほうれん草の新しい基準値は40ppmなので、
基準値40ppmのほうれん草40gを食べると1.6mg摂取することになります。
体重16kgの子供ではちょうどARfDの値になり、問題であるとの主張でしょう。

計算上ではそうなりますが、この考え方は妥当なのでしょうか?検証してみたいと思います。


図:クロチアニジン

・計算に用いられた数値が妥当とは考えにくい
まず、記事中に使用されている急性参照用量(ARfD)から考えてみます。いきなりEUを否定するような書き出しですが…
これはARfDとADIの定義からみると、とても違和感を感じる数値なのです。

まずは、ADIとARfDの定義から。
ADI:「人が一生涯にわたって毎日摂取し続けても、健康に影響を及ぼさないと判断される量」
ARfD:「24時間以内に摂取した食品や水に含まれる物質が、現時点での知見から消費者に対してなんらかの健康リスクを示さない、通常体重あたりで示される推定量

EUでのクロチアニジンのADI及びARfD(単位:共にmg/kg体重/日)は、
ADI: 0.097
ARfD: 0.1
…ほとんど一緒です。一生涯食べ続けても影響がない量(ADI)と、1日単位で健康リスクのない量(ARfD)が同じ?
普通に考えればおかしい話だと思います。
一応、ADIとARfDは同じ数値になることもあることはあるのですが…
FAO/WHO合同残留農薬専門会議(JMPR)ではADI:0.1、ARfD:0.6とされているので、個人的にはこちらの数値の方がより妥当だと思います。
http://fcsi.nihs.go.jp/dsifc/servlet/SearchApp?key=331&appkind=pestressearch&searchkind=detail_page&searchcondition=id

また、体重16kgの子供というのは、年齢で言うと大体4歳前後です。4歳の子供を代表例に使うのはどうか、という疑問もあります。


・クロチアニジンはこんなに残留しない
そもそも、基準値が40ppmだからといって、クロチアニジンが40ppm残留するということはあり得るのでしょうか?
まずは、ここの”参考”のPDFファイルをご覧ください。
「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の一部改正(食品中の農薬(クロチアニジン)の残留基準設定)」に関する意見の募集について
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=495130138&Mode=0

この中に、国内での使用方法という表があります。
ほうれん草の場合、16%クロチアニジン水溶剤を4000倍希釈して、10aあたり最大300L使い4回以内、
または0.5%クロチアニジン粒剤を6kg/10a、4回以内 との旨が書かれています。
また、この資料によると、ほうれん草は10aあたり1220kgとれるそうです。

平成22年産秋冬野菜等の作付面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量(全国)
http://www.maff.go.jp/j/tokei/sokuhou/syukaku_syutou_10/


これらのデータから、以下の式にて計算してみます。なお、この計算は、使用したクロチアニジンが100%ほうれん草に残るという前提の計算です。
(1kg当たりの粒剤中のクロチアニジン量(mg/kg))×(10a当たりの使用量)×(使用回数)÷(10a当たりのほうれんそうの収穫量)
0.5%クロチアニジン粒剤を4回使用した場合:500mg/kg×6kg×4回÷1220kg=9.83mg/kg
16%クロチアニジン水溶剤を4回使用した場合:(160000mg/L÷4000)×300L×4回÷1220kg=39.3mg/kg

40ppmという基準値は、一番使用した方法で、かつクロチアニジンがすべて残留するという前提っぽいですね。

では実際にクロチアニジンがすべて残留するのか? ”参考”PDFの21枚目に試験結果がちゃんと書いてあります。
6kg/10a 播種時播溝処理(1回)+16%水溶剤+ 2000倍 200L/10a(3回)
この条件では、すべて残留した場合で約61.475mg/kgになり、先の計算よりも多い総量を使用しています。
さらに、最終使用から収穫までの期間を最短とした場合で最も大きい値が記載されているものです。
(要するに、一番高い濃度となる条件の試験と言ってもいいです)
試験結果は、9.97と27.0mg/kg。大きい数値の方で考えても、最大44%残留という結果です。

基準値40ppmでも、ほうれん草に残るのは17.6ppmということになります。

現実には、こんな短期間に複数回農薬使用しませんし、出荷時期も考慮すると実際の残留濃度はさらに低いものになるでしょう。

これで、記事中の計算条件の一つが崩れました。
(もっとも、この数値を記事に突きつけたとしても、ほうれん草の量を増やされて危険と騒がれそうではありますが…。)

あえて今回の記事を3行で書くと…
・計算に使われたARfDの値はおかしいのでは?
・一番残留する条件でも、半分も残らない。実際の残留量はさらに少ないことが想像される。

・資料から必要なデータ抜きだして計算するのは面倒くさい(ぉぃ


で、ここまで計算して長くなってなんですけど…
これ、後半に続きます(汗)
今回の報道にARfDが出てきたので、あえて数値・計算に付き合った形です。
後半は、そもそも基準値はどのように設定されるのかなどについて書く予定です。
(実は、農薬がらみの記事は初めてです)

謎解き超科学、読みました

今回は、書評なるものを書いてみようと思います。

謎解き超科学
http://asios-blog.seesaa.net/article/377956190.html

大雑把な中身は、上記のASIOS公式ブログを読んでいただければ。

結論から書くと…この本はお買い得です!買って読みましょう!
・・・これだけで買う人はそうそういないと思うので、ちょっとだけ書きます。

この本は、いわゆるニセ科学をメインとして、怪しい話を「超科学」と表現し、まとめてあります。
取り上げられている内容は、大なり小なりなんとなく信じられていて、実際に問題が起きているものが多い気がします。

章は、このように分けられています。

第1章 日常に潜む超科学の真相
第2章 自然界に潜む超科学の真相
第3章 人体にまつわる超科学の真相
第4章 美容と健康にまつわる 超科学の真相

出版された本の構成は上記のようになってますが、色んな分野が多岐にわたっているので、
別の分類もやろうと思えばできるのですよね。

なので、ちょっと私の独断と偏見で分類してみました。

1.科学的にはありえないけど、信じられているトンデモ説
●「水からの伝言」の不思議
●「マイナスイオン」とはなにか?
●万能細菌「EM菌」とは?
●フリーエネルギーは実現するか?
相対性理論は間違っている?
●「ID論」とはなにか?
血液型性格判断は信用できるか?

2.医学・薬関係
●電磁波は健康被害を引き起こす!?
●「磁気がコリをほぐす」は本当か?
ゲルマニウムで治癒力が上がる?
デトックスで毒素を排出できる?
千島学説は信用できるか?
ホメオパシーで病気は治るか?

3.食品関係
サプリメントの効能と効果の錯覚
●牛乳を飲むと不健康になる?
●母乳神話の真相
●健康食品の広告トリック
マクロビオティックの真実
酵素栄養学の誤解

4.なんとなく、そうなのかなーと思われていたこと
●隕石落下はどれぐらい危険か?
百匹目の猿現象は本当か?
●動物の地震予知はあてになるか?
サブリミナル効果は存在するか?
●『ゲーム脳の恐怖』の真実
●死者の網膜写真
●人間は真空中で破裂する?

5.オカルト関連
●ポールシフトは起きるか?
キルリアン写真はオーラを写す?
●逆行催眠でよみがえる記憶
●「オーリングテスト」とはなにか?
●手かざし療法の危険性

どの記事もすばらしいのですが、
個人的に特に気に入った記事5つを赤文字にしました。

そして、この本を購入したら、
はじめに―かつての自分に贈りたい本
あとがき―「科学的に考える」ということ

この2つをしっかり読んでいただきたいです。
普通の本ではあまりない薦め方ですが…
いわゆるニセ科学では、はじめにとあとがきに書かれている考え方が特に重要です。

本屋で見かけたら、是非買って頂きたい一冊です。

じゃがいものソラニンによる食中毒

私なんかは本当にまたか!と言いたくなるのですが、今年は大阪でじゃがいも中のソラニンによる中毒事例が起こりました。

植物性自然毒による食中毒の発生について
http://www.pref.osaka.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=13676

患者の発症状況がソラニン類による食中毒症状と一致していること、ジャガイモの調理残品からソラニン類が検出されたこと、
患者を診察した医師から食中毒の届出があったことから、八尾保健所は食中毒と断定した。


ここで、改めてじゃがいも中のソラニンについての情報を整理します。

じゃがいもの芽は毒という話は、結構知られていると思います。
(この毒の名前がソラニン類と呼ばれ、主にα-ソラニンとα-チャコニン。ソラニンとチャコニンの毒性はほとんど一緒。これ以降、ソラニン類のことをソラニンと書いていきます)
ジャガイモの皮が緑色になったら、そこは芽と同じで危ないって話も、人によっては聞いたことがあると思います。

しかし…普通の色が変わっていないじゃがいもの皮、これにもソラニンは含まれています。
この、普通のじゃがいもを食べて食中毒になることもあるのです。(市販品での事例はほとんど聞いたことないけど)

小学校でほぼ毎年起きているじゃがいも中のソラニンによる食中毒は、大抵こんなケースです。

・(児童が栽培した)未成熟な小さいじゃがいも
調理実習で皮ごとゆでて食べる

学校の授業で生徒が栽培するとなると、農家が作りスーパーに並ぶような立派な物が出来ることは多くないでしょう。未成熟の小さなじゃがいもの比率が高めなのは容易に想像出来ます。

ここで問題なのが”小さなじゃがいも”だということ。

未成熟な小さいじゃがいもはソラニン類が多く含まれているといわれています。
(個人的には、小さい故、全体に占める皮の比率が高いからだと思ってます)

そしてさらに問題なのが、そのじゃがいもを皮ごと食べているケースが多いということ。
先にも書いたように、皮の方がソラニンの量、遙かに多いんです。
例えば、ここの測定データをみてみると、 皮に0.880、可食部に0.036mg/gソラニンが含まれていることがわかります。
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/health/16/1-3.html (2007年公開)


中毒を起こす量は、出典元により多少異なってます。
厚生労働省より:体重が50 kgの人の場合、ソラニンやチャコニンを50 mg摂取すると症状が出る可能性
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/higher_det_08.html

神奈川県より:ソラニン類を大人が200〜400mg摂取すると発症するとされています
http://www.eiken.pref.kanagawa.jp/008_topics/files/topics_080820.htm  (2008年公開)

今回の大阪の事例でいくと、ソラニンが591mg/kg含まれているじゃがいもをどれくらい食べれば中毒になるのか?
厚生労働省のページによる数値だと約100g、神奈川県の数値でみると約300g食べると中毒を起こすことになります。
・・・ただし、この数値は大人の場合です。

過去の事例から、子供は1/10の量で発症すると考えられています。(まだ代謝系が完成されていないからではないか?と現在のところ考えられてます)
つまり、皮ごと食べると10-30g食べるだけで中毒症状を起こすことになります。このくらいなら、簡単に食べちゃいますよね…。


要するにまとめると、
ソラニン量が多い小さいじゃがいもを
・特に多く含まれている皮ごと
ソラニンが少量でも中毒になりやすい子供が食べる


小学校で行われているじゃがいもの調理実習は、ソラニン中毒を起こしやすい条件が見事にそろっていることになります。

あと、もう一つ重要なこととして・・・ソラニンは茹でても焼いてもほとんど減りません!
(下にある東京都のページに詳しくあります)


本当に、毎年どこかの小学校で中毒が起きてニュースになるという現状は、どうにかならないのでしょうか?
厚生労働省文部科学省共に、中毒が起こるたび通知は出しているのですが、抑止効果は残念ながら薄いようです。

小学校の授業プログラムがどのように決められているのか、私は残念ながらわかりませんが…
じゃがいも中のソラニンによる中毒は原因・理由ともにはっきりわかっているのですから、いくらでも対策は出来ると思うのです。

1.そもそも、じゃがいもを育てない。
2.じゃがいもを育てる授業はあってもいいけど、作ったじゃがいもは食べない(調理実習は購入したジャガイモを使用する)
3.調理実習でじゃがいもとソラニンの話に触れ、皮は絶対に剥くようにする。
(可食部のソラニン量は、小さいじゃがいもでも1kgあたり36mgなので、これだけでも中毒リスクは限りなく0に近づく)

子供達に危害が及ばないように、小学校関係者や文部科学省は、この辺のことを考慮していただけないものでしょうかね。

なお、以下のページも参考にしてください。

東京都 食品衛生の窓 じゃがいも いも知識 (2007年公開)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/anzen_info/poteto.html

ポテトエッセイ第45話 http://www.geocities.jp/a5ama/e045.html(2010年最終更新?)

食の安全情報blog STOP! じゃがいも食中毒 (2010年公開)
http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20100223/1266900237

とらねこ日記 ほったいもたべるな (2011年公開)
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110807

Togetter http://togetter.com/li/519517 (2013年、私のつぶやきが結構あります)


今回、リンクの最後に公開年をわざわざ書いたのは…
じゃがいも中のソラニンに関する情報は公的機関や個人ブロガーなど、
ほぼ毎年、なんらかの形でどこかが注意喚起をしているのです。
私の今回の記事も、中毒を防ぐための一助となれば幸いです。

甘味料で食物アレルギー?と糖アルコールの区分の謎

5月10日に、このようなニュースが報道されました。

甘味料でアレルギー症状報告
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130510/k10014473591000.html (リンク切れ)

2013.6.20追記
NHK生活情報ブログのリンクで、より細かい内容になりました。
http://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/400/155986.html

一部引用
加工食品などに使われている甘味料が原因とみられる食物アレルギーの患者が30人余り報告されていたことが、専門の医師らの初めての全国調査で分かりました。
医師は、甘味料がアレルギーの原因になることはあまり知られていないとして注意を呼びかけています。

甘味料別では▽「エリスリトール」が15人、▽「キシリトール」が10人、▽「ステビア」が2人などとなっています。

正直、私は聞いたことがなかったので、このニュース自体を最初は疑ってました。
「甘味料は(中略)含まれる量が少ない場合、原材料としての表示を省略することもできます。」と書かれていたのでなおさら疑いました。
食品添加物の甘味料は五感に関わるので、表示は省略されません。
詳しくは食の安全情報blogに記事がUPされていますので、そちらをどうぞ。
甘味料の甘味料の食品表示について  http://d.hatena.ne.jp/ohira-y/20130510


この件に関して、色々Twitter上で情報提供がありまして、整理されました。

甘味料(天然物)でアレルギー報告 http://togetter.com/li/500585#c1073738
(このニュースを元にした談義ですが、食物アレルギーに関して有用なリンク先がたくさんありますので、そちらもご参考に)

上記のtogetterにある情報では、こんな感じでしょうか。
・文献検索でも2例、要旨集レベルでも報告はとても少ない。
・しかしながら、エリスリトールなどでアレルギー症状を起こすケースはある。
・症例が少なくまだ未知な部分も多いので、今後も調査をしていく必要がある。

個人的には、甘味料のアレルギーの頻度は非常に少ないので、現在症状が出ていない大多数の人は極端に避ける必要はないと思っています。
(甘味料は味の好みで選べばいい)

で、今回ニュースで言われた事例は、低カロリーあんぱんのあんにエリスリトールが使われていたけど、原材料表示が「あん」となってたケースらしいです。

これがキシリトールステビアだったら、食品添加物なので甘味料として必ず表示されます。
しかし…エリスリトールは甘みをつけるものではあるけど食品衛生法上「食品」なので、あんに砂糖の代わりとして混ぜ込んでも原材料「あん」で済むのかもしれない。
個人的にはあん(小豆、砂糖、エリスリトール)のように表示して欲しいですが。

消費者庁は「アレルギー物質としての表示が必要かどうかについても検討していくことになる」とコメントしています。

アレルギー表示をするとなると、食品扱いのエリスリトールと、食品添加物キシリトールで差が出てきます。
アレルギーの表示例を考えてみると…
食品添加物キシリトールは、甘味料(キシリトール)、
食品扱いのエリスリトールは、(原材料の一部にエリスリトールを含む)

間違いではないだろうけど、エリスリトールの食物アレルギーとしての表示をしてみたら、違和感感じます。


ここで表示例にステビアを使ってないのには理由があって…

今回のアレルギー事例では、キシリトールもエリスリトールも、両方とも「糖アルコール」に分類されるからです。(構造的にステビアは仲間はずれ)


この糖アルコールは、低カロリー、非う歯性などの特徴があります。
これが不思議なことに、分類は同じ糖アルコールなのに、食品添加物扱いのものと食品扱いのもの、両方あるのです。


食品扱いの糖アルコール エリスリトール、還元パラチノースマルチトールラクチトースラクチトールなど
食品添加物の糖アルコール キシロースキシリトールトレハロースソルビトール、マンニトール

(ちゃんと調べたつもりだけど、抜けがあるかも(^◇^;))

なんでこっちは食品であっちが食品添加物なのか、この区分けに科学的理由はありません。むしろ私が知りたいくらいです。

ここでいっそのこと、糖アルコールはまとめて食品添加物扱いにしてみてはいかがでしょうか?
甘味料(エリスリトール)と表示される方がシンプルで、アレルギー表示としても十分に成り立つと思うのですが、いかがでしょう。

(蛇足:エリスリトールは必ず表示するにしてもいいかもだけど…
さらに稀ながら他の糖アルコールでアレルギーが出る可能性を想像したので、添加物扱いにすればいいかな、と考えました)

食品添加物による健康被害事例を探した

食品添加物は、”とにかく体に悪い”とのイメージで見られています。

つい最近もこんなのが…。
思ったより深刻!加工食品のデメリットと避け方 (読まなくていいです)
http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/googirl/2012/10/post-1945.html

最初は、この記事の誤りを指摘していこうと思ったのですが…
ここで単発記事を一つ指摘しても、また同じような記事が世に出回ると考えてしまうとやる気が…


ここで発想の転換をしてみました。


とにかく悪いとの論調が多い食品添加物

では、実際に食品添加物が原因の健康被害事例って、どれくらいあるのだろうか?

というわけで調べてみました。
(なお、表示違反とか基準値超えのようなものは、健康被害は出ていないので除外します。)


1.森永ヒ素ミルク事件(1955)

経緯・症状:西日本で粉ミルクを飲んだ乳幼児が、衰弱死や肝臓肥大を次々に起こした。 世界最大級の食品公害となった。(死亡130名、発症発症12,001名)
原因:粉ミルク製造工程で大量のヒ素を含む第二リン酸ソーダを使用したことによる。
(日本の食品衛生史上、最も大きな出来事と認識している。)

公益財団法人 ひかり協会
http://www.hikari-k.or.jp/jiken/jiken-e.htm

失敗百選 〜森永ヒ素ミルク事件(1955)〜
http://www.sydrose.com/case100/302/


2.ズルチンによる急性中毒
代表例(1964)
経緯・症状:自家製のあんつけ餅を食べたところ、30人注6人が頭痛、嘔吐、手足のしびれを訴え、うち一人(73歳)は意識不明の重篤な症状で翌日死亡した。
原因:ズルチンの大量摂取による急性食中毒。ズルチンは比較的毒性が強く、過量摂取すると悪心、嘔吐、めまいなどの症状を起こす。
(ズルチンの甘さは砂糖の約250倍あるが、量を増やしても甘みは強くならないという変わった特徴があるので、うっかり大量に使いやすい添加物だったのであろう…)

ズルチンによる食中毒事件
食品衛生学雑誌 Vol. 10 (1969) No. 2 P 112-113
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/10/2/10_2_112/_article


3.ソルビトールによる急性中毒
代表例(1973)
経緯・症状:ゼンザイに、鏡開きの餅を入れて食べたところ、39人のうち35人が下痢を主とした中毒の届け出があった。
原因:食べたソルビトールの量は15.4〜154.5gとなり、甘味剤のDーソルビットによる急性中毒と断定された。
(なお、ソルビトールは20〜30gで緩下作用を示すとされています)

「インターネット随想」⑮経済性食中毒
http://blog.goo.ne.jp/kuroyan1259/e/1bfa9a665e8da90604380cebe8035457


4.ニコチン酸
代表例(1986)
経緯・症状:挽肉をハンバーグにして食べたところ、食べた直後から発疹、皮膚温度上昇、皮膚紅潮などの症状が起きた。
原因:肉を赤く発色させ、新鮮に見せるためにニコチン酸を不正に添加した。
(昭和55年から56年にかけて,日本各地でニコチン酸の過剰摂取による一過性の中毒事例が報告されたため、昭和57年より食肉および鮮魚介類には使用してはならないことになりました。)

東京衛研年報,38,229-232,1987.
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/1-50/pdf/ar-38.pdf


5.その他 
亜硝酸ナトリウム、90%酢酸、過酸化水素による事例

ズルチンやソルビトールの他の事例を含め、これにまとめられています。
千葉大学教育学部研究紀要 第31巻 第2部
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AN00179534/KJ00004299328.pdf


とりあえず、ネットや私が持っている書籍で確認できた事項は以上になります。

これを添加物ごとではなく、事例的な分類をしてみると、

A.添加物に有害な不純物が混じっていた。(添加物の使用法としては適切):1
B.添加物そのものの毒性が高かった。:2
(ズルチンは死者も出ていて、毒性も強いので昭和43年に使用が禁止されました)
C.誤って大量に使用した。(別のものと間違えたのも含む):3,5
D.意図的に不適切な使用をした。:4

この4パターンに分類されると思います。

これから、
Aの対策:品質のしっかりした食品添加物を使用する
→これは、ヒ素ミルク事件後、食品添加物公定書で規定されています。

Bの対策:有害な添加物を使用禁止にする。実際、昭和40年代は添加物の使用禁止ラッシュ時代であるとも言えます。
http://www62.tok2.com/home/gedow666/food/histry/jiten/eisei.htm
もっともズルチンに関しては
…時系列で見ると昭和22年に死亡事例が報告され、何件も事例があるのに使用禁止になったのが昭和43年なので、平成の今の感覚では遅すぎるとは思いますが。

Cの対策:添加物ごと、食品ごとに適切な量を使用する。
→現在、少なくとも平成に入ってからは、食品添加物としての用途としての事故は起きてないと思います。
・・・いわゆる健康食品としての事故事例はあるのですが(^◇^;)

Dの対策:食品添加物を用途外や禁止されている方法で使用しない。
ニコチン酸のように肉には使用禁止にするなどの対策は行われていますが…
困ったことに、頻繁ではないにしろ、平成に入ってからでもたまに見かけます。

http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/journal/2004/pdf/55-31.pdf
(ちなみにこの年報はソルビトールニコチン酸の事例がたまたま掲載されています。)


 で、とりあえず私が調べた限りでは、上記A〜Dにあげたような事例以外で、
食品添加物による健康被害が起きた事例を見つけることは出来ませんでした。
(もし他にあったら指摘してください。)

第二次世界大戦後から昭和40年代までは、添加物の品質や、添加物そのものの毒性に問題のある時代でもありましたが、
その後、添加物の規格基準制定から始まり、科学的に妥当とされる安全性評価、食品監視員を中心とした監視指導の徹底など、様々な進歩が重なりあって…

平成になった現在では、食品添加物による健康被害はまずありえないと言っていいでしょう

(ただ、残念ながら現在でもC、Dのケースを完全に防ぐことは困難でしょう…。)

コーラから発ガン性物質?の真偽(修正しました 2回目)

先日、2ちゃん関連ブログの痛いニュースにこんな記事が。

日本のコーラから発ガン性物質検出…カリフォルニア州で売ってるコーラの18倍
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1720186.html

NPO法人 食品と暮らしの安全」の協力団体であるアメリカの公益科学センター(CSPI)は、 6月26日、日本を含む世界各国で含まれているコカコーラには発ガン性物4-メチルイミダゾール(4-MI)が含まれていると発表した。この発ガン性物質は、カラメル色素を製造する過程で、砂糖やアンモニア、亜硫酸塩が高圧・高温下で化学反応を起こして生成される化学物質である。
CSPIの調査は、「NPO法人食品と暮らしの安全」を含む、世界各国の消費者団体の協力で行われた。発ガン性物質4-MIのレベルは、各国で異なり、ブラジルで販売されているコカコーラが最も汚染されていた。日本のコカコーラは、355ml換算で72マイクログラムで、カリフォルニア州で販売されているコカコーラが4マイクログラムだったのに対し約18倍も多い。


これの元になったのは、NPO法人 食品と暮らしの安全(旧名:日本子孫基金)のこのサイトのようです。
http://tabemono.info/report/report_9_3.html

さらに元を探ると、アメリカの公益科学センター(CSPI Center for Science in the Public Interest)です。
http://www.cspinet.org/new/201206261.html

実は、3月にも同様の報道がされています。
http://www.tax-hoken.com/news_1eIORwmx4.html


さて、抜きだした文章だけを見ると、コカコーラに発ガン性物質が入っていて危ないものという印象を受けると思います。


危険だの安全だの言う前に、まずは情報を整理していきます。

・4−メチルイミダゾール(以下、4-MeI)が検出されたのはコカコーラ。
・なぜコーラから検出されたのか?
 →コーラの黒い色は、着色料のカラメル色素で色をつけている。そして、カラメル色素には不純物として4-MeIが含まれているものがある。
・つまり、コーラから4-MeIが検出されるのはカラメル色素が原因である。

ということで、カラメル色素そのものについて調べてみました。

・カラメル色素は製法により4種類に分類され、それぞれカラメルⅠ、カラメルⅡ、カラメルⅢ、カラメルⅣと日本では呼ばれる。

・そのうち、カラメルⅡは日本では使用実績がないので、現実にはⅠ、Ⅲ、Ⅳの3種類のうちいずれかが使用されている。

・カラメル色素には規格が設定されており、4-MeIは規制されている。
 カラメルⅠで実質0.025mg/g未満、Ⅲで0.30mg/g、Ⅳで1mg/g以下 (すべて固形物換算)です。

カリフォルニア州のコカコーラからは4-MeIが4μg/355mL検出され、日本のは72μg/355mL、アメリカでもワシントン州のでは144μg/355mLであった。
ニュースの文章では、一番低い数値を基準にしているから一見日本製が高く見えるが、アメリカの他地域および他国と比較すると少ない。(むしろ半分以下)
(なぜ355mLなのかは、元の調査が12 fluid ouncesを単位としているから)
(とりあえずカラメルⅣの規格限度値である1mg/g入っているカラメル色素を使用したと仮定すると、コーラ355mLあたり約14gのカラメル色素を使用していることになる。あまり意味のない計算であるが)


で、ここまで色々書きましたが、そもそも根本的な問題として…

「4−メチルイミダゾールは発ガン性物質なのか?」

おそらく日本で入手できる詳しい資料として、食品添加物公定書解説書第8版からカラメル色素、関連項目で4-MeIの毒性について調べてみました。

・4-MeIは、糖とアンモニアの加熱によっても生成される。

・カラメルⅠより:特定の神経作用との関連はないが、マウスに大量に与えるとけいれんを起こす。
・カラメルⅢより:4-MeIはウサギ、マウス及びニワトリにおいて360mg/kg b.w.の経口投与で痙攣を起こす。

・・・なんか、4-MeIが発ガン性だという文章出てこないんですけど・・・

また、試薬でも4-MeIは販売されていますが、化学物質や化学物質が含まれる原材料などを安全に取り扱うために必要な情報が記載されているMSDSを見ても発ガン性って項目はないのですよね・・・。
例)和光純薬工業株式会社のMSDS 
http://www.siyaku.com/cgi-bin/gx.cgi/AppLogic+ufg280smsds_pr.ufg280smsds_disp?cls=1&msds_no=JW131120&m=s.c

どうやら、問題としたはずの発ガン性そのものがないようです。
(後日、文献等で情報が入手できたら追記します)

2012.7.12追記
はてなブックマークTwitter上で情報が集まりましたので追記します。
結論からいうと・・・ごめんなさい<(_ _)>
4−メチルイミダゾールは発ガン性物質(Group 2B)でした。

2012.7.18追記を青文字にします。

まずは、情報元を列記します。
情報元リンク(全部英語です)
IARCモノグラフ Vol.101で追加された物質 IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans Volume 101 (2012)
そのうち、4-MeIについて http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol101/mono101-015.pdf
英語版Wikipedia http://en.wikipedia.org/wiki/4-Methylimidazole
その中から、注釈8のAbstract(これがたぶん一番読みやすい)
http://ntp.niehs.nih.gov/index.cfm?objectid=9B956B07-F1F6-975E-79BBCDCCD57001C8
元論文(というか報告書?)
http://ntp.niehs.nih.gov/ntp/htdocs/LT_rpts/tr535.pdf

7/11に書いた時点での情報源は食品添加物公定書解説書第8版(2007/12発行)なので、2007年以降の最新データまでは書かれていなかったとはいえ・・・
ここで訂正し、謹んでお詫び申し上げます。そして、これらの情報を提供してくれた皆様に感謝します。

さらに追記
IARCの4-MeIについて http://monographs.iarc.fr/ENG/Monographs/vol101/mono101-015.pdf
この文章をよーく読んでいくと、6.Evaluation(評価)のところにこう書かれています。ちょっと意訳しますと、こんな感じ。
6.1 人に関しては、(評価に)利用できるデータがない
6.2 実験動物に関しては、発ガン性の十分な根拠がある
6.3 最終判定 4-MeIはGroup2Bに入れる。このグループは日本語に訳すとすると、”発ガン性が「あるかもしれない」”

6−1,2,3を整理すると、現在の知見では発ガン性物質とは呼べない、という状態です。

なお、カラメル色素そのものも毒性試験は行われていますが、発ガン性は認められていませんFDAEUでも同様の解釈です。

カリフォルニア州がなぜ4-MeIを発ガン性物質としているのかは…
一応何らかの根拠はあるのでしょうが・・・正直わかりませんでした。
2012.7.12追記
上記の論文が根拠ですね。
そして、取り上げたときの文書がこちらです。
http://oehha.ca.gov/prop65/crnr_notices/admin_listing/requests_info/pdf/ABPkg32_012508.pdf

様々な動物実験の中には、発ガン性を疑わせる結果の論文もあるでしょうが・・・
発ガン性の有無は、信頼出来る様々な実験結果を基に、投与量・実験動物の種類に依存する特徴、代謝経路等々色んな結果を総合的に解釈するものですから・・・
カリフォルニアのように一つの州だけ違うとしたら、科学的解釈とは別の謎のものさしで判断しているのだろうなぁ、と考えます。

2012.7.12追記
・・・上記三行は、見え消ししません。
そう考えた理由をこれから書きます。

それは、発ガン性物質の有無にかかわらず、濃度や実際の摂取量も考慮する必要があるからです。

もう一度、Abstractの結果表を見てみます。
http://ntp.niehs.nih.gov/index.cfm?objectid=9B956B07-F1F6-975E-79BBCDCCD57001C8

ざっとみて、影響が出たと考えられる濃度の1250ppmで考えてみます。
一方、コカコーラから検出された濃度はというと・・・とりあえず日本製のでいうと72μg/355mL。
ppmに換算すると・・・72÷355≒0.20μg/mL(=ppm)
同じ濃度単位に換算すると、6250倍の開きがあります。

さらに、マウス(体重約40g)やラット(体重約300−450g)と人間(小学1年の平均約21kg)では体重差がありますから、
体重あたりに換算するとその差はもっと開きます。

また、カラメル色素は別にコカコーラだけでなく様々な食品に使用されていますが…
動物実験みたいに1000ppm(別の表現をすれば0.1%)以上の4-MeIを含む食べ物だけをずっと食べ続けることは実質不可能です。

よって、IARCが4-MeIを発ガン性ランク:グループ2Bにしたとはいえ・・・
4-MeIが主原因でガンになることは、現実には考えにくいと解釈するものだと思います。

(蛇足:知ってる人は知ってるでしょうが、この発ガン性ランク:グループ2Bはコーヒーや携帯電話など日常ありふれたものも含まれています)

uneyamaさんから、コメントに有用な情報がリンクされました。
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20110309#p6

NOEALが80mg/kg/BW/dayと具体的な数値が出てきました。
NOEALについての説明はこちらを参照してもらうとして・・・

http://www.safe.nite.go.jp/shiryo/RA/about_RA4.html
4−メチルイミダゾールについては、このようになっているそうです。

NTPのマウスがん原性試験でみられた発がん性は、4- MEIに遺伝毒性はないこと、B6C3F1マウスには肺胞/気管支新生物は高頻度に発生することなどから閾値があると考えられた。したがってこの試験での中間用量である625 mg/kg餌、すなわち80 mg 4- MEI mg/kg体重/日がNOAELとみなせる。

カラメル色素で最大限入っているとされるもので1mg/gですから・・・
体重1kgあたり80gのカラメル色素を食べても、4-MeIによる影響はでないと考えられます。
・・・体重40kgの成人女性で考えると3.2kgのカラメル色素を一日に食べる・・・
4-MeIの毒性がでない量ですが、この量を食べるのは物理的にも味的にも色んな意味で無理です!(爆)

また、食品安全情報ブログの記事中にある、カリフォルニアの規制値リストみたいなものですが・・・
http://oehha.ca.gov/prop65/pdf/2012StatusReportJune.pdf
記事中のこの言葉を引用します。
「Prop65ではカドミウムなんて(生殖発生毒性が理由)1日4.1microgだから0.4ppm(mg/kg=400microg/kg)のコメだと10g超えたら警告対象だけど。コーラの4-MIどころではないんですが。」

この記事を読んでいたからこそ、”カリフォルニアは別の謎の物差し”という表現を用いました。


というわけで・・・
今回のこのニュースは、そもそも発ガン性物質ではない物質の4-MeIを発ガン物質として扱い、
一応発ガン性物質IARCのGroup2Bにカテゴライズされてはいるけど実質問題ない量の4-MeIについて
必要以上に恐怖を煽り、分析対象であるコカコーラを貶める、悪質な報道だと判断します。



なお、この件については、食品安全情報ブログでも取り上げられていますので、こちらもリンク先含めて読んで頂けると幸いです。
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20120705#p9
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20120321#p20
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20110309#p6
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20110221#p18

おまけ:メーカーによるカラメル色素情報

仙波糖化工業株式会社
http://www.sembatohka.co.jp/about/about_mamekara.html
天野実業株式会社
http://www.amanofoods.co.jp/technology/tech06.html

食品衛生学会を聞いてきた

先日、東京のタワーホール船堀で開催された食品衛生学会で色々話を聞いてきたので、放射能に関連した内容をある程度抜粋して紹介したいと思います。
()内は、私の個人的な感想コメントです。
また、私が聞いてメモして記憶に残った内容紹介なので、講演者の言いたいことすべてを書けているわけではないので、そこはご容赦ください。

第103回 日本食品衛生学会学術講演会のお知らせ・内容
http://www.shokuhineisei.jp/meeting/index.html#k103
プログラム
http://www.shokuhineisei.jp/meeting/103_prg.pdf

シンポジウムI 2.放射性セシウムの土壌等から農作物への移行

ゲルマニウム半導体検出器でのお話。原発事故直後は、CsやI以外のピークがたくさんあった。いくら分解能が高い検出器といえど、正確な測定は困難。
→同じサンプルを日を変えて測定し、各放射性物質半減期から算出した。

・原則として、セシウムは土からは植物に吸収されにくい。言い換えれば、セシウムは土壌に吸着している。

・小麦から高めの数値が出たときがありました。これは、葉っぱに降り注いだものが種子に移行した。

・土壌−土壌液液分配係数(Ka値)という指標があって、この数値が高いと土壌に吸着しやすいとのこと。
 Cs :3000L/kg
 K  : 10L/kg

・・・これだけ差があるとのこと。
そして、セシウムは表層1−3cmの範囲にとどまっている。土壌の下の方にはほとんど行かない。

・今後のポイント
・表面に降り注いだものは樹木の中に吸収されてとどまる。

留まるイメージは、こんな感じ。 常緑樹>落葉樹>>>草

・木の中に蓄えられたセシウムは、ある程度数値が下がるまでに数年かかる。
(果物系はある程度継続して検出されるかも?)

・キノコ
福島県では、農家の意識が高く栽培するときに注意しているので、高濃度になりにくい。
福島県以外:福島ほど注意していないため、汚染された原木を使用して高濃度になっている。
福島県の農家さんは、ちゃんと勉強しているということ。そして、その他は残念ながら不勉強と言わざるを得ないかも)

シンポジウムI 3.食品中の放射性物質調査の方法

理論的なお話が中心でした。

前に話題になったこともある、1Bqあたりの質量を一覧表にしてくれてました。

I-131 : 220 ag
Cs-134 : 21 fg
Cs-137 : 310 fg
Sr90 : 200 fg
Pu :  1.6 pg
U-235 : 13 μg


(・・・この単位を見てわかるように、通常の化学分析では少なすぎてCs137やI-131,Sr-90を測定するのは不可能。
単位の意味合いは、下記を参照あれ。)
http://www.wdic.org/w/SCI/%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%A0

ただし、α線核種であるウランはμgオーダーなので、ICP-MSで測定することが可能。
(オーダー的にギリギリだけど、濃縮すればPuならなんとかなるかも?)

あとは不確かさとか計数誤差とか2項分布とかポアソン分布とかガウス分布とか・・・
統計的なお話。

シンポジウムI 4.販売・流通からみた現状 主に日本生協連の対応から
生協のスタンス
1.国レベルの緊急事態→独自の判断はせず、国に従う。ただし、意見見解は伝える。
2.原発事故は終わっていない&放射性物質の動向はまたわからない
(まだ不明な部分も多いよ、との意味合いと解釈しました)
3.組合員の不安に応える

検査の目的
①行政モニタリングを補強するという考え
②コープ商品の管理状況を確認
③不安に対して応えていく

検査対象
プライベートブランド
②行政のモニタリング対象地域(17都県)を基本に行う

検査するにあたり、標準作業書の作製や、NaIでスクリーニング→Geで確定というしっかりした流れ。

陰膳調査もやった。
250サンプル中、11サンプルから検出(福島10、宮城1)
中央値は1.40Bq/kgであった。(他で行われている調査と比べても、同様の結果だと思われます。)

シンポジウムI 5.東京都健康安全研究センターでの取り組み

・NaIでスクリーニングを行い、50Bq/kg以上検出したとき、または測定下限値の数値の合計が50以上になったときはGeで確定検査。

汚染防止対策のために・・・
機器のある測定室と前処理室を区分した。
履き物は履き替える。
使い捨ての白衣手袋マスク帽子を着用
Ge半導体検出器はクリーンルーム内に設置。
・・・というくらいに放射性物質に汚染されないよう、気を使っている。
(スライドには書かれてなかったけど、実際にはさらに丁寧にやっていると思う)

NaIとGeのスペクトル比較がわかりやすかった。
特にCs134の定量に違いがありました。
Ge半導体検出器ではエネルギー効率が最もよい605keVで測定、
NaI検出器では、605KeVではCs137のエネルギーである662keVとの分離が不十分なので、より分離している796keVのエネルギーで測定していました。
(学会は写真撮影不可のため、画像なしなのが残念です)

一番大変だったこと:魚が来たとき。可食部とそうでない部分を分けるのが特に大変だったとのこと。
(魚を手際よくさばくなんて、通常の化学分析屋が慣れているわけもなし・・・)

後は、放射性物質関連の発表から抜き出します。
A-8
一般食品でも、乾燥食品は容器への充填率が低く、測定下限値が確保出来ないためスクリーニング検査は困難。
肉や魚は約1、果実根菜も約1、米や麦で0.85だけど、乾燥物は0.5以下。
(乾燥物は、無理してNaIでスクリーニングをせず、最初からGe半導体検出器で測定するしかないのかもしれない)

A-10
牛肉の部位別
ネックや、ももといった、筋肉が多く脂肪の少ない部分が検査には適している。

A-11
調理によるセシウムの変動を調査。
干し椎茸は、水戻しで約半分に減った。(ただし、今の基準では水戻ししてから測定するのが正式な方法)
牛肉は、焼くだけでも10%減る。
あげると20%減。
ゆでると60%減る(ゆで汁に移行)
煮込むと、80%が煮汁に移行

(個人的には、淡水魚を食材とするときに応用できないかと思ったりする。)

A-13
麦に関する話。
セシウムが麦に取り込まれると、外皮部分であるふすまの方に約8割存在した。
ただし、シンポジウムⅠ−2での話のように、葉から吸収されない今の状態では、高い濃度にはならないと考えられる。

A-14
福島の養鶏の話
本来は、福島に450万羽いたそうな。震災後は300万羽。いなくなった150万羽は福島県浜通り地域・・・

牛肉の汚染問題以降、風評被害が大きくなったとのこと。
養鶏ではセシウム汚染する要素が全く無いので実際は全く問題なし。
(汚染の要素がない:室内でのケージ飼い、餌は輸入物、水も問題ないなど)


パーキンエルマーのランチョンセミナ−:ICP-MSによるウランの測定
実は、震災直後から、福島大学に測定機器の無償提供をしていた。
(パーキンエルマーの測定機器の他、日立アロカのシンチレーションカウンターなども。これはもっと宣伝してもいいのに)
天然にウランは普通に存在し、普通のU-238が99.2745%、放射性物質であるU-235は0.720%の比率で存在している。
ウランをICP-MSで測定し、この比率であるか否かで原発由来かどうかを判定する。結果、測定結果はすべて天然由来の比率と一緒であった。
(ただし7−80kmの範囲で。7km未満の範囲では試料が採取できなかったため不明とのこと)
(2011年末に、学会誌である分析化学へ論文が掲載されたので、詳しく知りたい方かつ読める方は読んで見てください)
(あとICP-MSの原理とか理論の話もありましたが、あまりにも専門的なので省略)


簡潔にしたつもりが長文になってしまいましたが・・・
それだけ内容が盛りだくさんだったということでした。

注:今回は学会の講演内容を紹介した内容ですので、ブログ主である私個人に質問されても回答できないケースがあります。ご承知置きください。